母が昼ご飯をめんどくさがって抜くから困ると姉が言いにきた。
「勝手に自分で食べないで、私が帰ってきたらお腹すいたってせっつくんだから」
普段は母が朝晩の食事の支度をしているが、仕事が休みの日の晩ご飯は姉が作ることになっている。
庭から顔を出して話し、そのまま二子玉川にコンタクトレンズを買いに出かけて行った。
だからと言うわけでも無いが、昼過ぎ、ドーナツを揚げたのでそれと、スイカを切って持っていった。
「あら、ありがと、あなたもよくやるわねぇ」
「旦那さんが好きなのよ、ドーナツ。お裾分け」
渡すだけ渡してさっさと帰ろうと思っていると
「私、昨日、2時になっても3時になっても寝られなかったわよ」
と話し始めた。
「昨日、お姉さんが、お母さんが死んだら、トンも体が弱いし、長生きしなかったら私の老後は一人っきりになるって言うのを聞いて、本当そうだなあって思って。それ、考えたら寝られなくなっちゃったわよ。」
私自身が長生きできるだろうかと、不安になるように、母も姉もふとそんなことを考えると、それぞれいろいろ穏やかな気持ちでいられなくなるようだ。
「あの人もそんなこと考えるんだなあって思ったら可哀想になって」
子供の頃からお姉さんが一人っ子じゃ可哀想だからあなたを産んだと言われることが度々あった。刷り込みじゃ無いが、知らず知らず、私の1番の使命はそれと、どこかで思い込んでいる。
結婚しようが、子供を産もうが、本来の任務のお姉さんの元気な相棒として存在するという役割を忘れないように。
それが予定したよりも体が弱く、この妹、思ったほど期待に応えない。
独り身の長女の老後、どうなっちゃうんだろう。
「大丈夫だ、私はとにかく、長生きしますから」
「頼みますよ、もうそれを思ったら夜も寝られなくなっちゃった。孫くんの代になったら、お姉さんの居場所、なくなるわよ、きっと」
うちの息子はそんなにひどいことしませんって。が、反論は話を長引かせるだけなので、あえて流す。
「お母さんの心配していることは妄想です。お姉さんを不幸にはしません。そして私は細く長く生き続けますから。お姉さんが死ぬまで生きますってば」
それならいいけど・・・。
吐き出してスッキリしたらしく、母は今度はケロッと、あ、それからねえと、パステル教室のお友達が入院しただの、その知らせをあの人は聞いていてあの人は知らなかっただの、誰それが出した絵葉書、自分はもらったが、もらってない人もいるみたいだの、嬉しそうに話し出した。
ふんふんと相槌を打ちながら、長く生きねば。これでいいのか、意義だの自己肯定だの、自己需要だのどうでもいい。とにかく、長く、生きて存在せねばなあ・・とグルグル渦を巻いていた。