イチジク

昨日、スーパーで熟れかけた絶妙に食べ頃のイチジクが「見切り品」のシールを貼られて置いてあった。

姉の好物だ。そしてこんなふうに熟れすぎ寸前のやわやわのが、大好物なのだ。

1パックカゴに入れ、買って帰った。

二世帯で続いている実家の台所に顔を出すと、母が一人でテレビを観ていた。

「なあに?」

無表情のまま振り向き、立ち上がりこっちへやって来る。

「お姉さんに。お盆休みも大人しく家にいて偉い偉いってご褒美」

母にやめなさいと言われ、渋々チケットまで買ってあったライブを諦め、この連休、大嫌いな部屋の掃除と、気分転換の美術館巡りで我慢していた。毎年楽しみにしていた海外旅行も当分行けそうにない。

家で過ごすのが好きな私と違って、これは彼女にしてみたら相当つまらないお休みだったろう。コロナのためだから仕方ないとはいえ、かわいそうだった。

パックごと差し出すと、母の顔はパッと明るくなり

「あら、ありがと。あの人、これ、好きらしいのよね、知らなかったんだけど、喜ぶわ」

母は私達の食べ物の好みが今一つわかっていない。

ずっと父と祖母にアンテナを張ってきたので娘達まで気が回らなかったのだろう。

私がケーキよりもお煎餅を好み、ブランド物にそれほど興味がないというのも最近やっと把握してくれた。

「熟して柔らかいけど、それくらいの方が好きだから、わざとだからね」

「あ、そう」

ご機嫌で冷蔵庫にしまった。

姉が喜ぶものを持っていくと母は一番喜ぶ。

イチジク、桃、鶏ササミのフライ。

もう少ししたら、熟した柿、炊き込みごはん。

そして私は、母を喜ばせたくて、せっせとそれを運ぶ。