朝、窓をあけ、意味もなく、そこに置いてあるIKEAの椅子に腰掛けた。
おお・・。
この椅子、いつの間にこんなに座り心地よくなったんだろう。買ってきた時、喜び勇んで家で座ってみたら、お店で感じた「おぉぉ・・」の快感がなく、硬い座面にきしまないリクライニングに、がっかりした。
よくよく考えてみると店内で座ったあれは、散々いろんな人がサンプルとして腰を下ろしている、言わば、慣らしきった状態。
目の前に届いた新品を、あそこに到達するまでには、これから地道に圧をかけていかなくてはならない。
複数人が毎日毎日何度も何度もお尻を下ろしていたのと同じような座り心地に痩せっぽちの私一人がもっていくには相当かかるなあと、夫と息子にも「気が向いら座ってね」と頼んだが、一向にいつ腰掛けても、ギシっと硬いので、こりゃ当分無理だ諦めていた。
知らない間に、角の取れたIKEAくんはスンっと一瞬軽く撓み、前後に揺られて私を受け止めた。
なんとか居心地よいものにしようと意識していたときは全く変化なくてがっかりしていたのに、仕方ないかと思い始めた頃、気がつけばしっくりきてる。
・・・。
夫みたい。
結婚し、自分が求める優しい表現をしない彼に、どう働きかけたらわかってもらえるんだと悪戦苦闘し、傷つき、泣いた。
もうどうにでもなれと、怒り、心を閉ざした。
ああ、この人はこういう人なんだなと、諦め、観念し、全て丸ごと「有り」に受け入れた。
なにより自分が心穏やかになるためのことだった。
散々あって、ふと気がつくと、彼は今、私を一番癒し、勇気づけ、笑わせる。
そばにいて、気を使うこともなく、かといってときめくわけでもなく。でも、やっぱりあるとホッとする。
椅子、糠味噌、本革のカバン、夫。
手間と時間をかければ自然と自分にしっくりしたものになるんだな。
死ぬまでずっと一緒なんだから。
美味しいお酒や大好きなお煎餅でこまめにメンテナンスして、大事に大事にしていこうっと。