買い物に行くから、何かついでに買ってこようかと母のところに顔を出した。
「あら。じゃあ8枚切りのパンと・・そうね・・ひき肉、買ってきてもらおうかしら」
ハイハイ。了解。
マスクをし、まずは郵便局に行く。息子が大学の成績証明書を取り寄せるために必要な切手と簡易書留用封筒、長計3号封筒を頼まれている。
郵便局もやっぱりビニールシートで、こちらとあちらを区切っている。
もはや驚かない。それが今の主流。
頼まれていたものを読みあげると、すかさずメモをとって対応してくれる。なんとなく、そうした方がいいかなと思い、用件を伝えたら、数歩下がった。
「こちらでよろしいですか」
互いにマスク越し、ビニール越しなので、声を張って目配せをし、温厚な空気感を伝え合う。
次にコンビニに払い込みに。
ここではビニールシート、さらに手袋、そして、お釣りの手渡しはせずトレーに置く。
「トレー越しで申し訳ありません」
いつもは、別に笑顔振りまくことのない青年店員も、物腰が柔らかい。
彼らが危険を顧みず、営業していくれているから、私の日常の平穏さは保たれている。
そう思うとつい、いつもはそんなことしないのに彼の目を見て
「お世話様です」
とお金を受け取った。
キョトンとした表情をし、それからニッとマスクの上の目が笑う。
何か通じ合った気がして嬉しかった。
スーパーでごま油と牛乳、もやしとピーマン、それと母のひき肉にパンを買って家に帰ると、息子がちょうど居間にいた。
「ほれよ」
「ありがとヨォ。」
こやつ、コロナ感染が怖いとコンビニにA3プリントをしにいくのですら、渋々、恐る恐る行く。
家族が外出し戻ってくれば、玄関の戸を開けるなり「手洗いうがいしろな、手洗いな」と二階から降りてつきまとう。
正直、うるさい。
今日も郵便局に行くのが怖いと、私の買い物に便乗したのだ。
「だっておれ、就職活動中の大事な身だろ」
確かに。
「わかった。あなたがいつも私が倒れたらどうしようと心配して言ってくれる本心は、己の保身だな。自分にうつったらどうしようという」
「だってそうだろう。誰だって自分が一番大事だろう」
その堂々とした態度に愚かな母は「それでいいのだ」と安心する。
自分の身を削ってまで人を庇うような生き方、しないで欲しいと、馬鹿な私は心の中で願ってしまうのだ。
「あ、これ、おばあちゃんとこ、持っていってあげて」
ひき肉、パンを息子の前に置いた。
「なんだよ、これ」
「頼まれたの」
「なんだよ、こんな時ばっかり母さんを便利に使いやがって」
大真面目に憤慨する若造。
「おまえがゆうか」
にっと笑い
「ホンマや。おヌシはすぐ人を甘やかすからのう」
え。