夫が二階の寝室を占領しているため、じわりじわりとストレスが溜まっていた。
私の場所がない。コロナのストレスではなく、私の場所ないじゃないかストレス。
テレワークが長引くとなると、爆発する前に本腰を入れてこちらも対処せねば。
「いいんですよ、主婦なんだから自分の居場所なんて設けなくても。どうせいつもゴロゴロしてるんでしょ」
「机、机ってそこで何やるっていうの」
いつもそう言われる。母に。
おっしゃる通りで、別段デスクで仕事や調べ物をするわけでもない。家計簿すら付けていないのだ。机に向かってやらなくてはいけないことなんて何にもない、私には。
それでも欲しい。私のお机。ただそこに座っただけで、自分が自分になれるのだ。
誰の何でもない。お母さんでも妻でも娘でも妹でもない。子供の頃から仲良しのトンちゃんがヒュルルルルっと現れる。
そこでラジオを聴き、クックパッドを見、思いつきで古い友達に手紙をかく。
座っているだけでふわりふわりとやりたいことや興味が湧いてくる。
そうだそうだ、私ってこんなことが好きなんだった。
すぐそこにあるテーブルにさっきまで息子と会話していた私は、自分の発する言葉が彼にどう響くか、影響を与えるか、彼が前向きに明るい気持ちになるようにと思いながら言葉を選び、声のトーンを少しだけ操って座っていた。
そこから2メートルもないところにある折り畳みの小さな机に移っただけだが、ここにくるとどっぷり、自分自身に浸れる。
全て一旦降ろす。
ここでハフハフと息つぎをし、また「お母さん」に戻るのだ。
夫が単身赴任先から持って帰ってきた折り畳みデスクをリビングの真ん中に設置した。
電話を載せていた引き出し棚を机の横に置く。
できた。いいじゃない。
周囲でピストルバンバン、人が殺されるアクション物の映画を観てようと、ニュースの不安やストレスでざわつこうと、これでもう私の精神は振り回されない。
それらはただ、頭の上をスーッと流れていく音になる。
突如リビングに現れた私の基地。
これで私は大丈夫。
むふふふふふふふ。
笑みが、こみ上げてくる。
口元が緩む。
むふふふ。私のお机。