小鳥と野獣

昨夜なかなか寝付けず、目を閉じては開け、時計を見、そのたびに針がほとんど進んでいないことにがっくりとするを繰り返す。

疲れきって、さっさと布団に入ったものだから、余計夜明けまでの時間がたんまりとある。

二階にあがったのは10時前だった。

12時半、夫が寝室の扉を開けた。それまで流していた音楽を止める。

彼は音のない状態で眠りたい。

わたしはなにか聴きながらだと眠りにつきやすい。

これまで幾度となく、水面下の戦いが繰り広げられてきた。

後からやってきた夫にスピーカーの電源を切られ、彼が寝入ったところで再度わたしが小さな音でラジオや音楽を流す。

しばらくすると、その音が気になるのか、夫がまたそっと電源を切る。

その気配で目を覚ました私はまた、奴のイビキを確認して、もう一度音量をさらに音を小さくして流す。

たいてい、二度目になると、彼は目覚めることなく消されることはない。そこで私は安心し、好きなものを聴きながら目を閉じ、眠りにつく。

しかし、昨夜はどうにもこうにも眠れなかった。

夫とのいつものおきまりの、ついたり消したりの攻防戦が済んだ後も、頭が休まっていないのか、とろんとした気分にならない。

そっと「睡眠を誘う音楽」というのをYouTubeから流す。

小さく小さく波動を感じる程度の音量で穏やかなメロデイに気分良くなっているところに、スーッハーッっと鼻息がそれを遮る。

スーッ。ハーッ。スーッ、ハー。

寝ててもうるさい。

少しじわりと音量を上げた。

ピアノの旋律の後ろで小鳥が囀っている。そのさらに後ろでは小川のせせらぎ。

ああ、ここは森の中ね。小鳥も小川も・・・

「んがっ!」。

・・・・。なんの動物かしら・・・。

ここは森。小鳥が・・小川のせせらぎ・・・「ンゴゴゴゴゴゴッ!」

・・・猪だわ・・。

また少し音量を上げる。

流れるメロディ。きらめく光。小鳥の囀り・・。

ゴゴゴゴゴッ、んごごごごごっ!

・・・・この森には野蛮な何かが住みついている・・。

また少しだけボリュームを上げ、考えた。

寝ているところにこの美しい音楽を聞かせてしまうご迷惑と、眠りたいところに野獣のようなイビキと鼻息を聞かされることと。

どっちのほうが重罪だろう。

ええいっ。なにもそこまで遠慮せんでええわいっ。

ピ、ピ、ピ、ピ、ピ。

心おきなく、自分の聞きたい音量にした。

小鳥の囀りも小川も近くに感じられる。

が。野獣が去った気配はないのであった。

ンゴゴゴゴゴゴッツ・・・・スーッ、ハーッ・・・・。