検診日だった。
私の通っているのは国立病院なので、コロナウィルス受入先になっている。入り口前には運動会の役員がいるようなテントが張られ、疑わしくてやってきた人はまずはそこに立ち寄るよう指示をしていた。
当たり前だが、医療スタッフ全員がマスクをして表情も険しく物々しい。
それでもどこか呑気に「私は予約診察だから別件です」とそこをすり抜け、中に入る。
予約番号の掲示順に呼ばれるはずなのが、やたら早く呼ばれた。指定されていた時間よりも30分も前だ。
「こんにちわ」
「ああ、どうもどうも」
いつものようにゆったり構えている先生にほっとしたのも束の間
「もう、一刻も早くこの病院から出てください。すみません」
と言われた。
この病院にも毎日どんどん感染者がやってきてます。もちろん入院している人もたくさんいます。もう、今は戦時中のような非常事態だと思ってください。
「トンさんは免疫が弱いから感染したら深刻なことになると思いますから気をつけて、もうすぐにここから出ていってください。すみませんねぇ、なんだか。」
先生も最前線の現場に従事しているそうだ。こうして外来を診ながら、またすぐ戦場に戻ると言う。
「ホント、変な話、次の外来、生きているかどうか・・」
冗談という感じではなかった。
これが現実なんだ。
「とにかく当分こなくていいように薬を三ヶ月分出しておきますから。とにかく、家に籠っていてください」
ゆったりした口調はいつも通りだが、先生に余裕がないのを感じる。
「精神的に辛いですね」
思わず口にすると
「まあ・・・ね・・・っと、乗り切るしかないですよ」
弱々しい笑顔だった。
スーパーで食材を買い込みして帰ろうと寄ると、ひき肉もパンも棚にはない。
平日の午後2時。
自覚ないまま世の中があれよあれよという間に変化している。
帰宅してすぐに湯を沸かし風呂に入った。
今日受けた衝撃も狼狽そうになった心も全て洗い流してしまうと何事もなかったかのような日常がそこにある。
今夜は青椒肉絲と餃子。
・・・そういや、検査結果、聞かなかった。
先生、どうか生き伸びて。
またゆったり私を迎えて。