くだらぬ

本日も夫は家で仕事をしている。

お煎餅をこよなく愛する彼を喜ばせたくて、戸棚に大好物の老舗の胡麻煎餅を隠しておいた。

バレンタインもチョコレートよりこれがいいと言うほどの好物を、絶妙のタイミングで差し出そうとしまっておいた。

昼食後、コーヒーを入れているその背後で囁いた。

「・・・胡麻煎餅、食べる?」

「あ、食べよっかな」

 ん?おかしい。なんだその淡白なリアクションは。いつものようにもっと

「え、あるのっ?」とかなんとか言って驚き、わーいわーいと小躍りするあれはどこいった。

「その戸棚の下の銀色の缶缶の中に白いビニールがあって・・」

「あ、実は昨日、それ少しもらって食べちゃった」

なんだトォ。

とたん、嫁は豹変する。

「じゃ、もうあとは息子と私の分だから。食べないでよ、だってそれみんなのために買ってきたんだから」

わーいわーいと騒いでくれたら、全部あなたのだから少しずつどうぞと、スマートな良妻をやるつもりだったのが、未熟なもので、さっさと勝手に食べやがったと知ると意地悪をしたくなる。

「えっ、食べる食べる、あと一枚、あ、二枚、二枚だけ」

さっさと缶の蓋を開け、ガサガサ取り出し二階に逃げていった。

一体どれくらい食べたんだ。見ると袋の中には残り三枚しかない。

あいつめ。12枚入りを買ったのに、もう3枚とは。奴め昨日、私が昼寝している間に相当食べやがったなと、またしても腹立たしい。

ようし。

袋から二枚取り出し、ジップロックに移し、冷蔵庫の野菜室に入れた。

敵は今晩また、私が寝たあと残りを食べようと缶を開けるであろう。

フッフ。驚くがよい。

側で一部始終を見ていた息子が、冷蔵庫の前で不気味にニヤつく母に向かって呟いた。

「いっそのこと缶の蓋に「やーいやーい」って書いとけば?」