昨日の朝、寝室でアイロンをかけようとコンセントにコードを差し込んだ。
春と言っても寒がりの私は早朝にオイルヒータを弱でつける。
このところのテレワークに羽を伸ばしたため、ワイシャツは溜まりに溜まっている。
今日は久しぶりに出社するというのに、シワのないのは一つもない。
朝やればいいやと、すっかりサボり癖のついた私は昨夜もやらず、寝たのだった。
アイロン台にワイシャツを広げ、熱を乗せる。
ジュワーっとスチームが立ち上がる。
と、そのとき。バチっと電気が消えた。
アイロンのランプも消えた。
あぁ。やっちゃった。オイルヒータにコレを一緒に使ったものだから、容量オーバーでブレーカーが落ちちゃった。
「なにっどうしたっ」
狼狽る夫にわざと冷静を装い
「大丈夫、ただ、ブレーカーが落ちただけ」
言いながら気がついた。ラジオは相変わらず聞こえてくる。
iPhoneからBluetoothスピーカ経由で聴いているのだが、どちらも機能している。
「スピーカーが使えてるってことは部屋半分の電気系統になにか問題でもおきたのかしら」
「そうだ、そうだよな。あっちは使えてるんだから」
夫の卒業した大学はバリっバリの理系専門である。なのに、彼は家の中の電気に関して全く役に立ってくれない。
テレビの配線も私がやった。録画も未だにできない。録画の再生もできない。覚える気がない。
電化製品が故障するとすぐ、新しいのを買いなさいと言う。
「ちょっと下に行ってブレーカー上げてみて」
しかし、どれも落ちていないと言う。見てみると確かに変化はない。
じゃあ、やっぱりここじゃないか。
しかし今はワイシャツの皺伸ばしの方が先だ。
仕方ないので裁縫用のハンディタイプのものでなんとか仕上げた。
それから朝食の準備をしながらも、気持ちは暗い。
ブレーカーじゃないとしたら大事になりそうだ。
すぐ直らないのかなあ。
いくらかかるのかなあ。
明日気温が下がるっていうのにどうしよう。
ああ。テレワーク。あの部屋が使えないとなると夫はリビングで仕事するのか。
夫が出かけてからもう一度現場確認に上がっていった。
照明はつかない。電気スタンドもだめ。けれどやっぱりスピーカーは使えた。
なぜだ。
そこでやっと気がついた。
充電だ。なんのことはない。iPhoneもスピーカーも蓄電していた電力で作動していたのだ。
部屋半分だけ停電するなんてことあるわけがない。
しかし途方に暮れるのは変わらない。
「家中の電気を確認してみたんですけど、寝室だけなんです」
住宅メーカーに電話をした。
ブレーカーを確認しましたかというので、したと答える。どこも正常だった。どっこも落ちていなかったと訴える。
しばらくお待ちくださいね。担当の者に聞いてきます。
難しい案件なんだろうかと気を揉んでいると、すぐもどってきた。
「あの、もう一度見てきてください。時間が経って落ちることもあるらしいです」
内心さっきも見たばかりだと思いつつ、少々お待ちくださいと、一応念のためと行ってみた。
するとさっきまでズラっと上を向いていたのが、今は真ん中のひとつだけ、だらんと下に降りているではないか。
一瞬気持ちがパッと明るくなる。やっぱりブレーカーだけか。
近くにあったモップの柄でグイッとやってみたが、嵌まらず離すとまた降りる。
やっぱり重症なんだ。また気持ちが下がる。
「今見たらブレーカー落ちてました。寝室のだけ。でも、上に押し上げても落ちてしまいます」
電話口の女性社員に深刻な事態だと再度伝える。
「そうですか・・・。」
彼女も困っているところをみるとこれはもう、工事とかすることになるんだ、今日来てくれるのかなあ、などと思っていると
「すみません、またちょっと聞いてきます」。
今度こそ時間がかかるぞと待っているとまたすぐやってきた。
「あの、最初何度か落ちるのはそういうものらしです。続けて何度かやってみてください。一回下に押し下げ直して、もう一度上げるっていうのを何度か」
え。
言われた通りやってみると、2回目であっけないほど簡単にバチっという音と確かな手応えがして、上に嵌った。
あれほど朝から何回やってもダメだったのに。
直っちゃったよ。
すぐに電話に戻る。
すみません、お恥ずかしい。ちゃんと上がりました。朝っぱらからお騒がせして申し訳ありません。ホント、お恥ずかしい。
何度も平謝りをする。
別に謝ることもないのだろうが、なんとも気恥ずかしい。それはそれはあっけなかった。
「いえいえ、よかったです」
彼女の声も明るくなり、互いによかったよかったと笑い合い電話を切った。
夜、帰宅した夫に部屋の電気、直りましたと得意になって教える。
「本当っ?大変だったでしょう。実は今日ずっと気になってたんだ。僕が会社のパソコン持ってきたから、コンセントからなにか悪いウィルスが入って家の電気系統に悪さしたのかなとか考えてた」
・・・・。
キミ、理系じゃないだろ。