妄想バス

歯の検診に行くためにバスに乗った。

コロナウィルスの影響なのか、いつもこのお昼ちょっと前の時間は混み合っているのに、割合空いている。

一人一人が離れて腰掛けている。単独行動のお年寄りが多い。通院とか銀行とか食料買い出しだろうか。

久しぶりのバスが新鮮でキョロキョロ車内の広告を見たり、窓の外を除いたり、ほんの15分の乗車が遠足のようで楽しい。

大きな公園の前を通過した。子供たちが遊んでいる。

やはり単独。サッカーの一人ドリブルをする子、自転車に乗る子、キックボードをする子。

仲間と遊んでいないからどの子も声を発していないようで静かだ。

その横をベビーカーを押す若いママ。小学校低学年、もしくはもっと下のらしきヘルメットを被った小さな子供を従えた母親が二台の自転車で通り抜けていく。

おじいさんがベンチで新聞を読んでいる。

お婆さんがこれまた一人で体操をしている。

静かに賑わう公園。ひとつも味気なくはない。公園全体が自習室のよう。

バスの中に目を戻せば、同じ一人なのだが、なんとなくみんなマスクをし、俯き、どよんとしている。この中に保菌者がいるんじゃないだろうねと、堅くガードしているようだ。

気のせいかもしれない。私が先入観で勝手にそう思い込んでいるから。

あのおじいさんは、実はあのマスク、昨日遠方の普段は交流のない息子が「どうせマスク持ってねえだろ」と送りつけてきたのかもしれない。「余計な世話やきやがって」とか言いながら今朝ウキウキして着用して出てきたのかも。

あのお婆さんは、見えなくなって諦めていた目が、手術しないでも治るとさっき医者で言われたばかり。嬉しくてたまらないところかもしれない。

それであのおじいさんは、家に帰ったら孫に借りた漫画が待っていて、今そのことで頭が一杯なのかもしれない。

あの人は今日の午後、楽しみにしていた通販の極上ダウンの羽毛布団が届く・・。

そうやって一人一人に勝手なストーリーを作って見回していくと、なんだかみんなお腹の中で

「ウッシッシ」とニンマリしているように感じる。

このバス、実は幸福オーラ満帆バスなのかも。

一人、一人、降りて行った。

終点で下車したのは、私と孫に漫画を借りている設定のおじいさんと、手術のいらなくなった設定お婆さんだけだった。

「おい、昼飯どこかで食べてくか?」

「そうねえ」

ご夫婦か。

なんだ。わかっていたらもっと楽しいお話妄想したのに。