寂しい卒業式を彩りたかった

ハワイに行った友人のお嬢さんが今日、都立高校を卒業するそうだ。

「やっぱり保護者は参加禁止で本人達だけの卒業式です」

ああ。これまで子供の行事は必ず夫婦揃って行き、たくさんの写真を撮ってきた彼女はさぞかし無念だろう。

「ご卒業おめでとう。参列できないのは残念だね。でも、これまであなたはよく頑張ったね。お疲れ様でした。娘さんにもおめでとうとお伝えください。」

旦那さんが会社をやめて実質収入がなくなってからは、彼女のアルバイトと貯金と実家からの支援とでやっている。

お兄さんは私立大学、習い事も趣味も旅行も子供達にはやりたいことは全てやらせてやる代わりに、彼女は一切無駄遣いをせず陽気にやりくりをしてきた。

娘さんよりも私としては彼女を労ってやりたい。

夕方、夫に車を出してもらって大きなスーパーまで買い出しに行った。

地下にある花屋さんに買い物してくる間に3000円でアレンジメントをと頼んだ。

「卒業祝いなんです。高校の。体育会系の活発な女の子なので」

「じゃあ。可愛らしく元気なイメージがいいですね」

レジを済ませてから花屋に戻り花を受け取った。

覆ってあった袋の上から覗くとデージーやスイトピーに、赤い木の実のようなものが入った小ぶりの寄せ植えが、可愛らしく収まっている。

生の花ってすごいな。

私まで気持ちが浮かれる。

これをこのまま持っていこう。

彼女のシュンとしている心も浮かれて欲しい。

車を彼女の家の下で止めてもらい私だけ袋を持って降りた。

外階段に面した台所の出窓からオレンジの灯りが漏れている。

よかった。居る。

「はあい」

思っていた以上に喜んでくれた。

「おめでとうございます。華やかな夜をお過ごしくだせえまし」

上がっていく?

いや、車が待ってるから。

「何よ、そういや、私たち会うの禁止じゃなかったの?」

あ、やっぱ根に持ってる。

「あと一週間の辛抱じゃ。」

「そしたら呼んでよ」

呼ぶ呼ぶ。

ほんの3分かそこいらの面会。短い時間にぎゅうっと繋がる。

卒業おめでとう。

ママ。お疲れ様でした。