夫がテレワークだと月曜、家にいた。
今日も家にいるというのでてっきりテレワークかといつものように早起きしたらいつまで経っても起きてこない。声をかけにいくと
「あ、今日は有給」
紛らわしい。
平日だというのに3人揃って家でだらだらと過ごしている。
昨日は姉が休暇で「部屋の掃除を監視してて欲しい」というので午後、隣の実家に行く。
彼女は掃除が苦手で、掃除が嫌い。やっと取り掛かってもついつい、ベッドに寝転がり本を読んだりDVDを見たりしてしまう。
「あなたが側にいるとなんでかサボらずにやれちゃうのよねぇ」
以前はバイト代をもらって主に私が掃除をし綺麗にしていたが、それはなんだか私自身が嫌なのでやめてもらった。バイト代といえど、手伝ってお金をもらうとなんだか雇われているようで後から気が滅入った。手伝うのは嫌じゃないが無償にしてくれと言ったら、だったら見張っていてくれということで話はついた。
それ以来私は彼女が掃除する側で部屋に転がっている漫画を読みながら床に座って見ている。
窓を締め切っているので喚起しろというと
「私しかこの部屋に出入りしないからいいんだ」
という。
「そういう屁理屈言ってないであけなさい。ライブに行きたいけどコロナウィルスが心配だとか言っておきながら。全く。あ、け、ろ〜」
ベランダに面した窓を開けた。
「そっちも。風が通らないでしょう」
「あ、そっか」。
素直にもう片方の壁に面した窓も開けた。
可愛い人だ。
姉と私の関係は面白い。
読書家で博識の姉は中高は御三家の女子校に通い有名私立女子大を卒後業した。
母も亡き父方の祖母も亡き父も、彼女の言動には一目置いており、行動力と好奇心の強い彼女のやることはただ、黙って見守っていた。
長女としてというよりも第一子として育てられた。
姉自身も自分は長女であるという想いが強く、母や祖母に対して時として辛辣な意見をズパッと切るように言うくせに、私には甘い。
旅行に行っても私への土産は一番お金をかける。
まあ財布を忘れたから会社まで届けてくれとか、母に内緒で買った着払いの宅急便を「あなたんとこに届くようにしたから受け取って隠しといて」などと、便利な手下として扱ってる節もままあるのだが、基本、私の味方だ。
母との関係がストレスで体調を崩してからは時々ピシャリと援軍になって言ってくれることもある。
それだけ賢く料理も裁縫もできる彼女が唯一、壊滅的なのが部屋の整理整頓なのだ。
あまりに散らかりすぎて私以外の誰も部屋には入れない。
そして自分でも「そろそろやらねばならん」と決心すると、私のところにやってくる。
掃除をする手を止め嬉しそうに、最近ハマっているラッパーの話を熱っぽく語りだす。初めはふんふんと、相槌を打っているがあまりに長いと
「いいから掃除しんシャイよ」
と私が促す。すると「あ」とまた、作業に戻る。これは捨てる。これはまだ使える。どっからどう見てももうガラクタにしか見えない瓶や雑貨が山ほどあるのでなかなか部屋は片付かないが、それでも彼女なりに自分の部屋を綺麗にしようとしている姿は健気で可愛い。
この時間は姉妹の時間でもある。
部屋にグルグル、グルグルと私の腸が動く音が響いた。
「何、それあなたのお腹?」
「うん、お母さんに内緒だよ。こないだピザ食べたら案の定、その晩お腹壊した。もうだいぶよくなってきたから大丈夫」
「あぁ。一度壊すと三日は調子悪いから、気をつけなさい」
「今日がその三日目です」
「私もお母さんに言ったのよ、なんであの人にピザ食べさせたのって。」
油物に弱い妹の誕生日にピザにしたことを叱ったと言う。
「私もお寿司がよかったわぁ。あの人ちょっと過敏よ」
そんなやりとりがあったと聞くと心が強くなる。
4時になり、読みかけの漫画と文庫本三冊を借りて家に戻ることにした。
帰りがけ、階下にいた母が
「すみませんねぇ。お手伝いいただいて。綺麗になったの?」
と頭を下げる。うちの娘がお世話になりましたと、いつもわざわざ出てきて礼を言うのだ。
「私は見てただけだから。換気だけはするよう言いました。だいぶスッキリしたよ」
あらあらお疲れ様と私を労っているところに姉が降りてきた。
「じゃ、本はゆっくり借りてていいね」
「あいよっ、ご苦労」
あなたご苦労じゃないでしょ、ありがとうっていうんでしょ、本って何?
ドアを締めた向こうでそう言っている母の声がした。
なんだか変な3人なのだ。