応援団長

息子がインターンの応募に落ちた。

数出した中のうちの一つに過ぎないのだが、瞬時に落ち込んだ。

夕食前に風呂に入ろうと

「なんか寒いから、ちょっとのんびりしててもいい?」

と声を かけた時は

「許可する。のんびりダラダラしろ」

と戯けていたのに、数分後出てきたら

「〇〇もインターン、落ちた」

とテンション駄々さがりになっていた。私の入浴中にメールが届いたようだ。

表現通り、これまでにも書類選考の段階で振り分け除外された経験はいくつかある。

その度に息子は深く落ち込み、元気をなくす。

ディスカッションに来ませんか?と会社の方から引き続き案内をくださるところもあっても、不合格通知はやはり、傷つくようだ。

客観的に思うのは、彼はそんな超一流大学に通ってもいない平凡な気のいい学生だ。

企業がホイホイどうぞ我が社を見に来てくださいと声をかけるほど、履歴書に力はない。

「おれ、会ってくれたらそんなにダメじゃないと思うんだけどなあ」

会ってもらうまでが、難しい。

「なんか、エントリーすらさせてもらえないと自分自身を否定されたような気がする」

そうだろう。徹夜して、練りに練った企画書や意気込みをドキドキしながらやっとの思いで送信したというのに、数週間後、たった一つのメールで「ごめんね」と言われちゃえば、ズン・・・ともなる。

不器用で優等生でもなかった母は、誰よりもその痛みがわかるぞ。

しかし、その反面、母は頭の隅でこうも思う。

だって、全部大手ばかりじゃん。

もっと規模が小さいところでもいい会社はいっぱいあるんだから、そっちにも目を向けてみればいいのに。

宝はあっちに埋まってるんじゃないの?と言いたくて言いたくて、もどかしい。

一度だけ、チラッと言ったことがある。

もっと小さい会社も見てみたら?

そうしたら怒った怒った。

「なんでそんな初めっから小さいとこ小さいとこっていうんだよ!内定もらえればなんでもいいってわけじゃないだろ、そういうの、ヤなんだよ。本当に働きたいと思うとこじゃないと!毎日行くんだから!」

ハッとした。

何も有名企業じゃなくても・・もっとこっちの方も・・というのは、よくよく考えてみれば、私自身がさっさと安心したいからだった。

本人は茨の道だろうが、遠回りだろうが、王道を進みたいのだ。思った通りに生きていけと、これまで彼のやりたいことだけを応援してきたつもりだったが、最後の最後、いざ社会にでる、いわば集大成の本番に親の私の腰が引けたのだ。

なんのための母親だろう。

どんな状況でも全面的に指示する応援団長じゃないか、私は。

不安だったのだ。私が。

私が不安だというのなら当の本人は如何程か。

私よりもっと若く、開き直りも打算もない、やわやわな剥き出しの感性で、一生懸命立ち向かっているのだ。

つい、楽な道はこっちじゃないの?と囁いた。

高い高い山を見上げて登ろうとしている息子に向かって、もっと緩やかでも景色のいい山もあるんだよと言ったのだった。

それ以来、一切、口を出すのはやめた。

今こそ、彼がこれまで「なんでも自分で決めてやってきた」ことの底力を発揮するときだ。

不器用で悩んだり心痛めたりしながらも、決して自分の意に沿わない流れにはのらなかった、そのエネルギーを出し切れ、息子よ。

昨日は夕飯を半分で残し、二階に上がって寝てしまった。

ほんの数時間前までやっていた、テスト対策のドリルがテーブルの椅子の上に積み上げられたまま、まだ眠っている。

起き上がれ。

前を向け。

空を見上げろ。

食べろ。寝ろ。そして笑え。いつものように。

笑ってくれ。

そして、がんばってくれ。

大丈夫、君はどこまで行っても幸せだから。