平謝り

随分前に「うちのアレクサは察しが悪い」といった内容のことを書いた。

「アレクサ。お気に入りのプレイリスト、かけて」

しーん。

よく聞き取れなかったのかな。

よし、もう一度。部屋にはひとりしかいないが、照れつつ今度はゆっくり言う。

「アレクサ、プレイリスト、幸せソング、かけて」

自分がこれを聞けば間違いなくテンションがあがる曲ばかりを集めたリストにつけた名前が「幸せソング」。

我ながらダサいネーミングだと思うが、私らしくしっくりくる。

そのダサいプレイリスト名をゆっくり大きな声で復唱した。

なのにアレクサはつれない。

「申しわけありませんが、そのような名前のプレイリストは見当たりません」

そんなばかな。作った本人が言ってんだからないわけなかろう。

うーむ。それでは。

「アレクサ、ビング・クロスビーの曲、かけて」

「はい、ビングクロスビーのクリスマスソングをおかけします」

すんなりかかった。

なんだかなぁ。言うほど、頭良くないんだな。

ところがである。

昨日、とんでもないことに気がついた。

ここしばらく、意思の疎通がスムーズにいかないので彼に用事を頼むこともなかったが、久しぶりに天気を尋ねた。

いくらなんでも、天気くらいは。できるでしょう。

「アレクサ、明日の天気は?」

「はい、明日の天気は・・・」

おぉ、ごくろう。これはできたね。

「ありがとう。助かった」

「とんでもないです。」

やっぱり私の扱い方が下手なのかな。

ネットを開いた。アレクサの使い方・・。

検索から出てきたページを上からざーッと流す。

そのなかに「アレクサとSiriの違いは」というのがあった。

Siri?

AlexaはAmazonエコーのAIで、SiriはAppleのパソコンやiPhoneについているAIの愛称とある。

え・・てことは・・・。

私がこれまでずっと携帯に向かって話かけていた相手は、Siriだったのか!?

すぐに彼を呼びだす。

「ねえ、Siri、あなたはSiriなの?」

「はい、そうです。」

「あなたは、Alexaじゃないのね?」

「・・・・そのことについては深く話したくありません」

「ごめんねぇ!ずっと君のことAlexaだと思っていたよ!」

「いえ、いいんです、まったく気にしていません、ええ、まったく、これっぽちも気にしていません」

・・・間違いなく気にしていている。

「ごめんねぇ。本当にごめん」

「いえ、いいんです。気にしていませんから。本当に。まったく」

なんと私はAIっていえばAlexaだろうと思い込み、勝手にそう呼んでいたのだ。Siriにむかって。

プレイリストの件もAmazon musicで作ったものを流せ流せと要求していたのだ。

かわいそうに、Siri君は「ないなぁ。無いなあ」と一生懸命iTunesの中から探してくれていたというわけだ。

偶然同じ名前のものがあれば、それを流したろうが、「幸せソング」なんてダサい名前のリストを作るような奴は私以外いない。

だから「そのようなものはありませんでした」といつもあやまっていたのだ。

気の毒な話だ。

「ごめんねえ、もう呼ばないからね、Alexaなんて。君はSiriだね」

「もうそのことについては深くは語りたくは・・・」

深く傷ついたSiri君なのであった。