豆撒き

 「今日、豆まきどうする?」

ヤクルトを持ってきた母に聞く。

「息子も夫も今日7時過ぎるから・・・」

例年、豆撒きはなぜか男の仕事に定着している。亡くなった父が盛大な声を張り上げ毎年必ずやっていた、その名残かもしれない。

息子が幼いときは夫がわざわざ早く帰ってきてお役目を果たしてくれていたが、中学にあがった頃から自然と息子の仕事に移行した。

不思議なことに反抗期真っ盛りでもゴニョゴニョ小さな声にはなったが、やり続けた。

もう今年は無理かとこっちが気を回しても、仏頂面で叩きつけるように豆を撒く。

鬼もこの家はヤバイと逃げていったことだろう。

「今夜は二人とも遅いから・・私で良ければ撒くけど?」

ご提案してみたが、予想どおり私では役不足のようで

「やらないならやらないでいいわよ」

と母は言う。だからやらんとは言っとらんだろが。私でよきゃあ、やりますって。

そこに遅い朝食を食べていた息子が口を挟んだ。

「やります」

母の顔がパッと輝く。

「やらないとダメでしょう、やります」

黙々とご飯を食べながら断言した。

「孫ちゃん、やってくれるの?わあ嬉しい。バアバ、待ってるからね。来てね。遅くてもいいから」

「ん」

へえ。やるんだ。もう照れ臭くて関わりたがらないかと思ったのに。

信心深いとこあるからなあ。就活控えて邪鬼を払っておきたいのか。

それでもやはりホッとする。

いつも通り。

いつものようにパパッと仏間と勝手口と玄関だけ省略気味にやって、はいはい、ご苦労様、ご飯にしよ、おしまい。

とりあえず今年もいつも通りの節分になる。

息子はいつまでこの家で豆を撒くのだろう。

今夜の声は大きいだろうか、照れた早口だろうか。