おきらくにと誰かに届け

年賀状の準備をなんにもしていないことに今朝、気がついた。

午前中、煮込みハンバーグをこしらえ、ドトールに籠る。

昔から学校の課題は図書室や学食でないと進まない。

リミットが迫っている。家でラジオを聴きながらのんびりやっていたら、間違いなく気を散らし終わらない。

甘いお菓子もといきたいところを「終わった後でのご褒美」にとまずは堪え、コーヒーのみを注文し店内すみに陣取る。

初めてしまえば単純作業なので集中さえできればすぐ終わるはずだ。

一昨年から楽をして、ネット印刷の会社に差出人印刷まで注文することにしている。

デザインからなにから、すべて出来上がったのを家まで送ってくれるのだ。

以前のようにイラストやレイアウトを自分で考え作り上げるのも楽しかったが、この簡単さを一度やってしまうともう、戻れない。

せめて届いたものに挨拶文を手書きで書き込むことで、自分の中でよしとしているのだが、意外なことにこの方が心を落ちくけ、一人一人にむけた言葉を選べるような気がする。

サイトを開くためにiPadiPhoneをペアリングする。

Bluetoothをオンにすると接続できるリストが自分の携帯を含めずらっと縦に並んで出てきた。

〇〇〇〇のiPhoneという表記で私のものが表示された。その下に山倉健介(仮名)のiPhoneもある。

するとこの店のどこかに山倉くんがいるのね。

山倉、仕事頑張れよ、あ、勉強かな。

そんなことを思いながら作業を始めた。

・・・・。

なんかやだな。

ここは自宅から歩いて5分のコーヒーショップ。地元の主婦や息子の友達、隣近所の誰かも利用するだろう。

そうそう皆んながみんな、パソコン開いてペアリングするとは思わないが、万が一誰かがフルネーム丸出しの私のiPhoneを見つけたら、きまり悪い。

ここでは存在を消していたいのだ。個でありたい。

作業を一旦中止し、携帯の設定を開く。

どこをいじったらいいんだろう。

ここでもない、あそこでもない、こっちでもない。

いろいろあたってみた結果、情報というところから変更できるようだとわかった。

カーソルをあわせ、バックさせる。まずはフルネームは消えた。

さて。新しい名称はなんにしよう。ここで入力したものが、次回から他所様のペアリングの際、表示される。

名前はだめ。生年月日もだめ。

そうだ。

okiraku

ふふふ。ずらっと並ぶ無機質な機種名の中にokirakuとあったら楽しい。

これから仕事やレポート課題にとりかかる誰かが見つけたら、なんじゃこりゃと思うだろうか。

変更し、保存した。

自分のiPadで確認するとなってるなってる。キラリと光るokirakuの文字があるではないか。誰かがこれを見て「そうだよな。気楽にいこう」と一瞬でも緩んでくれたらいい。

結局気を散らし、やっとそこから賀状の手配にとりかかるのだった。