タイツ

タイツが履けるようになった。

倒れる少し前から、履けなくなっていた。きゅっと足を包み込むあの圧に負けてしまう。膝下はまだなんとかなったが太もも、腹周りを締め付けられるのに内臓が押され、苦しく気分が悪くなる。

圧力の強いストッキングを履いていたわけでもなく、ゆるいゆるい毛糸のタイツでもダメだった。二つ、サイズを上げてみたがそれでも苦しい。思い切ってお腹のゴムにハサミを入れて切り込みを作ったがそれでもダメだった。

諦め、緩めのスパッツか下着を重ねて履いて冬はなんとか乗り切る。秋、春はスパッツ。冬は緩めを重ねばき。

色気も何もあったものではないが、そんな洒落っ気ももうどうでも良くなっていた。

歩くことに、立っていることに、出歩くことに必死。それができりゃあ、なんでもいい。

退院してからは外界を絶っていた時期が長かったので身なりなんてどうでも良かったのだ。

今朝、ふと、何を思ったか、箪笥の一番上の靴下をしまっている引き出しの中のタイツに目が入った。

幼稚園児が履いているような地厚のもので、モスグリーン。

・・・。

今日はお墓参りに行く。気温も高く晴れる。昨夜から何を着ていこうかとぼんやり考えていた。

あったかいらしいからスカート履きたいなあ。上に合わせるカーディガンもイメージするが、足元で悩む。

ブーツって季節でもないし。スカートの下からあの毛玉だらけの黒いスパッツじゃあなぁ。

いつものように黒い長ズボンにするか・・・楽だし。

それでも春の陽気に浮かれてちょっとお洒落をしたかった。

・・・。

納戸の椅子に腰掛け、タイツをよーく伸ばす。洗濯して縮まったナイロンを丹念に丹念に縦横に引っ張る。

少しでも圧力を少なくするためだ。

履いてみた。

きゅうっとつま先からふくらはぎ、太もも、下っ腹、お尻、胃袋のあたりまで詰め込まれるように抑え込まれる。

お腹の辺りに締まってくるゴムが思っていたほど辛くない。

むしろ、グッと支えてもらってシャキッとする。

いける。今日、これ履いてスカートで出かけよう。ベージュのあのスカートに空色のハイネックのセーター。無印のトレンチコート。

内臓が元気になったのだ。腹筋もついてきたのだ。

タイツの圧に負けなくなっていた。

もう一生、自分はタイツもストッキングも無理だと思っていた。

別に悲しくも思っていなかった。困ってもいなかった。

でも、嬉しい。

身体は進歩していた。