先週末、息子がシャツにアイロンをかけていた。
それら6枚がずらっと納戸の入り口の上に引っ掛けられている。
悪戦苦闘してやっとの思いでピンとしたものをクローゼットにしまうと他の洋服との摩擦で新たなシワがよる。
夫のワイシャツもせっかく綺麗になったのに熱を冷ましてから入れてもどうしてもそうなってしまう。
服屋でディスプレイされているようにスカスカに間を空ければいいのだろうけど、背広の上下と同じところに収納するとなると、どうしても隣同士の服の間隔は狭くなってしまう。
洋服を買うのが好きな息子のところはもう、密着しているといった方が正しい。
だからなのかもしれないが、毎日シャツの暖簾の下を潜り、その奥にある箪笥から出し入れするのは迷惑だ。
高そうなシャツ、それもアイロンをかけてあるパリッとしたものを、落とさないように腰を屈める。
まるでパン食い競技をしているようだ。
落とした衝撃でシワがついたり汚れたりしたら文句を言われるのではないか。
ヒヤヒヤおっかなびっくりそこを通過する。
「ねえ、あそこの洋服、自分のところにしまってよ」
「あそこがいいんだ」
「あそこは公共の場だよ」
「いま、忙しい、帰ったらやる」
そうのらりくらりと交わされ5日が過ぎた。
「ねえ、もういい加減しまって」
「今のところ問題は起きとらん」
ここで容認するとこれからずっとあそこに暖簾がかかることになる。
「ま、いいけどさ。言っておくけど私は落とさないようにしゃがんでいるけど、父さんはどうかな。あの人がそんな気配りをするだろうか。あの洋服に突っ込んでいって、あ、落っこちたって、雑に拾ってまた雑に引っ掛けておくよ、彼なら。」
ニヤニヤしていたのがサッと変わる。
「それはいかん」
「いいけどね。綺麗なシャツに父さんのおでこの脂がくっついて、床の埃を吸着するだけだけどね」
その日の午後、2階に上がると全て撤収されていた。