『線を書く』というはてなブログで知り、その一途さに惹かれ追いかけているうち、あれよあれよとどんどん立派になって手の届かない作家さんになられた。
"勝手に応援していたつもりが、気がつくと遠くからそっと追いかける、そんな存在になっていた。
それでも義理堅くこんな私にも個展や催しの案内を送ってくださる。
私はといえば相変わらず自分の容姿にも体力にも自信がなく人前に出る一歩が踏み出せない。いただいても心の中で「ごめんなさい」と毎回後ろめたかった。
きっと立派なお客さんやファンがついているのだろう。こんな垢抜けない中年女がノコノコ現れ自己紹介されても困るよなあ。
それが今回、声をかけられなくてもいいから行ってみようと何故か思った。
繊細で緻密だけれど可愛らしく温かい。優しさがあるのに鋭い。金沢拠点の彼女の作品が近くで観られるのだ。行こう。
平日昼下がりの日本橋。数年引きこもっている間に街並みは随分雰囲気が変わった。
もはや私がぶらぶらほっつき歩いていた頃のオフィス街ではない。
表通りには老舗の和菓子屋も洋食屋も変わらず残っているが、高島屋には新館ができ、その周りには小さなブランド店が並び、オープンカフェもある。
見知らぬ外国の路地裏を歩いているようだ。
不安げなのを隠そうと突き進んでいる自分の速度に、明らかに自分が舞い上がっているのだと気がつく。
緊張しているな、私。緊張しているぞ。落ち着け。そう言い聞かせる。
会場に行くと、ふんわりした、とても伝統工芸士というイメージから想像する厳しさとはかけ離れた、黒いパンツスーツの女性が隅に立っていた。
すぐにわかる。彼女だ。
周りには誰もいない。勇気を出して声をかけ、名乗った。
はじめ、ポカンと戸惑っていたのが何かがつながったようで、「ああ!」と認識してくださった。
声をかけずに帰ろうと思っていたのに、気がつくとベラベラと話していた。
何がきっかけで好きになったか、どこが好きなのか、どう感じているのか、ヤバいオタクファンが熱く語るのをニコニコ頷いて聞いてくれる。決して上手に話せなかったし、スマートにこなすこともできなかったけれど、彼女の受け止め方があまりに心地よく柔らかだったので気持ちが高揚してしまった。
もう大丈夫と自分に言えるのを待っていたら数十年、何もできない、どこにも行けない。
しわくちゃの顔とスタイルもセンスもイマイチの身体と不器用な性格のまま、それらをぶら下げ出て行ってみようか。
うまくできなくていい。できない前提で一歩踏み出してみても、何も悲しいことは起きないのかもしれない。
彼女の美しい緻密な作品は不思議な力を放つ。癒すとはこういうことか。
小さな自信がついた。