甘ったれ

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朝、散歩の最後に選ぶ道。

ここを歩く時、見上げながら「おはよう」「いつも見守ってくれてありがとね」「昨日は来なくてごめんね」などと頭の中で話しかけている。かなり怪しい。怪しいが、声を出していないので、はたから見れば木々の間からの木漏れ日を眺めながら歩む人に映っているはずだ。

植物にテレパシーが通じると、幼い子供のようなことをどこか本気で思っている。

こっそり、抱きついたりしてみる。

じっと、されるがままにして私を迎えてくれる幹は不思議と温かい。ぽかぽかしているわけでもないのに、温かいのだ。

目を瞑ってよっかかる。

そいいえば、洗面所で髭を剃っている父の背中に起き抜けの寝ぼけた体をペタッとくっつけて寄りかかったなあ。

「おはよぅ」

「おはよう」

背中で受け止めながら父は鏡越しに笑った。

甘ったれていた。それが許されることが心地よかった。

全身の体重を乗せて寄りかかっても、大丈夫だった、安心感。

木に巻き付く時、どこかで父を探している。

求めればすぐ、どの木にでも降りてきてくれるように思うのだ。

だって魂になっているんだから。それくらいできるでしょう。瞬間移動もテレパシーも。

「これだよ」

父の口癖が聞こえる。

眉毛を下げて、ちょっと得意げに、ちょっと嬉しそうに、おかしそうに笑う顔。

「わざわざ公園に来て巻き付かなくても、いつも結構そばにいるんですけどねぇ。」

 

 

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