ご満悦

朝のテレビ番組で主婦がコロナの中、家族が常に家にいるようになって、自分の居場所がなくなりお疲れ気味だという話題をやっていた。

「母さんのことやん」

息子がすかさず呟く。あら。わかってくれてるんだと知ると、我慢も我慢じゃなくなる。

「親父、これうちのことだぞ」

我関せずと新聞を広げていた夫は、突っ込まれ初めて顔をあげた。

「え?あ、そう?そうか」

お愛想程度に画面をちらりと見、

「ありがとね、感謝してる」

とまた、誌面に目を落とした。

「おざなりに」

あまりの心のこもらない「ありがと」に笑って不貞腐て見せると、それは聞こえたようで

「ホントだよぉ、思ってるよぉ」と、これまた台詞のように繰り返した。

テレビの中では問題解決のための模様替えが始まった。

キッチンカウンターの下に並べてあった本棚を、部屋の角から少し離して背あわせで置き、その中にミニデスクを設置した。幅1メートルほどの小さなスペースができた。

「いいですねえ、パーソナル感あります〜」

模様替えをしていたお笑い芸人が、ご満悦でそこに収まった。ここが彼の仕事場になるらしい。

奥様にはカウンターにハイチェアを置き、そこでパソコンや読書ができるようになった。

息子も夫の関心はすでに逸れ、テレビを観ているような観てないようなで、話題も他に移った。

私は相槌をつきながら、じっと画面を観続けた。

 

夫がやがて二階に上り、息子は健康診断に学校に行支度をはじめた。食器を流しに持っていき、早速はじめる。

あの整理ダンスを・・あのミニ机を・・椅子を・・で、パーテーションをあそこに・・。

テレビを観ながら脳内でイメージしていた通りに家具を動かす。

コロナ体制はどうやら長丁場だ。

間にあわせにあっちこっち定まらなかった私の居場所も、ボチボチス本格的に確保しよう。

遠慮していたが、テレビの定位置が移動し、ご不満が生じたとしても、多少の我儘は許してもらってもいいだろう。

だって私、頑張ってるもん。

「できた。今日からここがお母さんの部屋」

ちょうどそこに二階から荷物を持って降りてきた息子に見せた。

狭苦しくなったとか、移動させたテレビが見にくくなったとか言われるかと様子を伺ったが、

「あー、ハイハイ、よかったよかった」

あっさり流された。

よし。承認された。

窓際に構えた私の新基地。テレビ、テーブルからパーテーションで区切った隅っこは個室感があって落ち着く。

くるりとすれば、庭を眺めてぼんやりできる。いいでないの。いいでないの。

別にやることはないが机に向かって、私もご満悦になった。

問題は冬だ。

窓からの冷気でここは寒いのだ。特に足元は重要な案件になるだろう。

ま、そのときはそのときということで。少なくともあと2ヶ月は快適だ。

とにかく今のところは、嬉しい。