夜明けの騒動

体力がないので、書き留めたいことをつらつらと書き残す。

 

明け方息子に起こされた。時計は4時半。

「まだお腹が痛いんだけど、これはどうみても虫垂炎だ」

昨夜、1時半、やはり起こされた。そのときは「さっきから胃のあたりが痛いんだけど、この感じはこの前の時と同じ気がする・・・って言ってみたところでしょうがないんだけど」

とまあ、寝れるなら寝てしまって様子を見ようという段階だった。あれから結局眠れず夜を明かしたらしい。

「なんかだんだんマジでやばくなってきた。熱もある気がする」

額に手を当てると、びっしょり濡れている。熱は7度4分。

「とにかく、コロナじゃないから、安心しなさい、大丈夫だから」

ハッタリでも勘でもなんでも、まずは不安を取り除かねば。

息子は慎重、かつ、相当の心配性だ。

「おれ、大丈夫かよ、病院で感染したりしないかよ」

夜通し、眠れずに、そんなことを考えていたという。

「絶対大丈夫。私が側にいるから。絶対に、死んだりしない!」

前回、救急外来で処方されて残っていたロキソンを飲ませた。

「強い薬だから。これを飲んで50分くらいしてまだ痛かったら救急相談に電話しよう」

今の時期病院は行きたくないとしぶるが、迷いはない。

痛くて苦しいなら、絶対我慢はしちゃダメだ。

向こうだって、今現在も、コロナ以外の患者さんを抱えながら戦っているはずだ、外来を増やすことは心苦しいが、たとえ虫垂炎だって命に関わる。ギリギリの耐えきれない痛みから先は医療に頼るしかない。

薬を飲み始め、40分たっても効いてこない。これは腹を括るしかないか、救急車を呼ぶとすぐやってくる、とりあえず私は着替えておこう。

着替えを取りに二階に上がる。

タンスを開け、上着を選ぶ。こういうときは、とにかくなんでもいいから目に入ったものを掴むものかと思ったら、一瞬、頭の中で「今日は気温が上がるらしいし・・病院は結構温度高いしな」と手をつけかけた薄手のカーディガンを、「あ、これ、この前せっかく手洗いしたばっかりなんだよな」などと手を離し、そんなこと言ってる場合かともう一度拾い上げる。

あれだけ息子への対処は迷うことなく判断するのに、こんなことで迷う自分に小さく驚き、呆れた。

寝室の扉を開けた。

目の前には気持ちよさそうに寝息を立てている夫が布団に包まれている。

どうしようか。まだ救急車が来ると決まっているわけでもないし。薬が効けば、寝てるのをわざわざ起こして騒ぎ立てる必要もない。こっちはゆっくり寝かしておこうか。

ここでも、迷う。

この前はいよいよ救急車が来ることになってから、夫を起こした。今回も・・・いや。

「ねえ、ちょっと・・・」

夫はガバッとすぐ上半身を起こし、「何、どした」とこちらを見た。

状況を説明し、いよいよ病院に行くことになったらまた言いにくるからと告げると

「わかった、なんなら父さん、車出すよ」

と答え、またすぐ布団に潜った。

やっぱり起こしてよかった。

起きてきてもらってもなんの役にも立たないからと、一人で踏ん張ることはない。

なんの役に立たない人じゃないのだ。

「わかった、なんかあったら車出すから」

そう言い残し、もうすでにまた寝ているが、今とさっきじゃ、私は随分と落ち着きが違う。

共有。

今、起きている事態を共有してくれる味方がいると、安心できる。

その存在は私には夫であり、息子には私なのだ。

言ったところでどうしようもないんだけど、一応。

息子は痛みと不安を私に、私はそれに対処する進行形の緊張と彼から受け取った不安をまた更に夫に。

二人の絡まった「共有求む」の事態を夫は全部受け取り、スヤスヤと眠っているのだ。

「なんだか急に楽になってきた気がする」

薬を飲んでちょうど50分した頃、息子が弱々しくそう呟いた。

「もう大丈夫だよ、少し、寝なさい。また痛くなっても今日の分の薬はあるから」

「心配だよ、俺は」

「一切心配する必要はないから、安心して寝なさい。絶対に大丈夫だから」

ホントかよとヨロヨロと階段を上がっていき、短い緊迫はどうにか乗り切った。

一切心配する必要はない。

なぜなら、お前の不安は全部私が引き受けるからです。

そしてその不安をまた父さんが後ろで引き受けてくれます。