サンタいつまで

 

「今年はサンタクロースになにを頼もうかなぁ」 息子が朝、小学生新聞を読みながら独り言とも、相談と もとれるような口調でつぶやいた。 ありゃ。今年もサ ンタ、まだやる気なんだ。 

5年生。今年の10月で9歳になった。

11といえば、 まさに私のサンタクロースが消え去っていった歳だ。ある 日突然母に 

「今年からサンタ、来ないから」 と言われ深く傷ついた記憶がある。 

「いないのよ、サンタは」

「嘘だ、いるもん」

鼻水垂らしながら反論したが「お姉さんが中学受験だから今年でもう終わり」とバッサリ現実を突きつけられた。あのときの絶望感は今でも覚えている。

 私のメルヘンをぶち壊した母を長いこと恨んできたが、 いざ自分の息子が五年にもなって、なんの疑いもなく「サ ンタさん」などと言っているのを見ると、これはこれで放っておいていいものかと複雑にもなるものだ。

 兄弟のいる子はボチボチ知っているはず。「馬鹿だな、 おまえ、まだ信じてんのかよ」くらい言ってくれる子はい ないのか。そんな母の思いをよそに息子は続ける。 

「今年もNASAが追跡調査始めてるかな。チェックしと かないと」 

あぁ、そうだった。私にも責任はあるのだ。

去年、インターネットでNASAのホームページが人工 衛星で、サンタクロースを追い、今どの辺りを移動中か、配 信しているのを見つけた。へぇ。洒落たことするな。そう 思った私わざわざ息子を呼び、これを見せた。 

これがいけなかった。 

NASAのメルヘンにすかりやられてしま った息子は目を輝かせこう言ったのだ。 「なんだ、やっぱりいるんだね。サンタさん!だってこ れ、あのNASAでしょ。すごいよ!」 今にして思えば四年生のあの時期、揺らいでいたのだ。 そこを私がこっちの世界に引き戻してしまったのだ。 

「クラスのみんなはなんて言ってるの?」 

「セキちゃんもエガちゃんももうサンタさんに頼んだって。DSのソフト。ゲーム ソフトにする子多いんだよ。でも、ぼくゲーム興味ないか らなぁ」 

セキちゃんとは中学生のお兄ちゃんもいるやんちゃ坊 主。エガちゃんとは常に全国模試でトップクラスの成績を とっているクールで優秀なお子様。 ホントかいな・・・。 公園で遊具には乗らずにゲームばかりしている子供たち も、こういうところはまだ、みんな信じているというの か。 いや、すべて知っている子達はいるはずだ。おそらく呑 気な息子の周りにいる仲間の間でのみ、メルヘンが息づい ているのか。それとも本人の気づかないところでマダシンジテイヤガルと馬鹿にしているのか。

いっとき、普段なら駄目と言われるだろうと思う品を、 ここぞとばかりにねだるため、サンタを信じ続けているふ りをしているのかと疑った時期もあった。 去年、奴の希望の品は天体望遠鏡だった。インターネッ トで調べてみると、どんなに安いものでも万はする。こち らの予算をはるかに超えていた。 

迷った。サンタもときにはそれは無理と断ることがあっ てもいいんじゃなかろうか。期待をかわされたことで、じ わじわ疑惑を持ち始めてもいいころだし。 「買ってやんなさいよ」 当時は息子に甘い夫の一言で、高いクリスマスプレゼン トをネット注文したが、このとき思ったのだ。もしやこや つ、知っているのか。知ったうえでのおねだりかと。 

けれど親が思うほど息子はそんなに聡明な知恵はもって いなかった。今年の希望の品は、トランシーバ。即、調べ ると相場は二千円。サンタ信仰と値段はどうやら関係な い。 去年せっかく揺らいだ息子のメルヘンも『NASAも公 認するサンタはどんな高価なものでもプレゼントしてくれ る。さすがサンタさん!』と落ち着いてしまったようだ。 この歳で再度確信を持ってしまった。 

「お、やっぱりもう、出発してる」 

学校行く前の慌ただしい時間にパソコンを開くバカ息 子。 

「ほら、とにかく行きなさいよ。そんなことしてる と・・・」

「なに?」

「なんでもない。さっさと学校行っとくれ」 

飲み込んだ言葉は。

「そんなことしてるとサンタさんだってこの家、迂回してくよっ」。 

あぁ、やっぱりこの私がいけない。 

…でも。どこかに居るんじゃないかしら…。

と、思いませ んか?・・・サンタさん。 

 


2010.12