自滅

息子に建て替えを頼まれた着払いの荷物のためにお金の入った封筒を

「食器棚の引き出しに入れあるからね」と言ったのに、いざその段になったら「どこ?どこ?」という夫。

土曜の午後。

もうっ。

さっきわかったって返事したじゃん。

テレビ観ながら。

いい加減に聞き流すから。

そう言いたいのを堪え、

「食器棚のスプーンの入ってるとこだよ」

おこらない、おこらない。

それでもわからないらしく、苛立ち慌てた声で急き立てるように早口で「ないよ、ないって!どこ?」と繰り返す。

こんなふうに起こされたくないからわざわざ頼準備して頼んだのにっ。

テレビのラグビーに夢中になるといつもこう。

私の具合の悪いのよりラグビーが大事になるんだ。

身体に余裕がないと心も狭くなる。

普段なんとも思わないことでも腹が立つ。

「スプーンのはいってるとこだってば!」

かなりキツく響いた。

荒々しく降りていくと、既に玄関に宅急便のいつものおじさんが立っているではないか。

「あ、どうもこんにちわ」

急に笑顔で取り繕うのもかえってカッコ悪い気がして、まるで思春期の男の子の挨拶のようなぶっきら棒な会釈をしたが、あちらは固い表情だった。

あぁ・・・。やってもうた。

これまで愛想よく受け答えしていたのも全てがパアだ。

きっと

「あのうち、嫁、こえ〜」

と怯えている。

次からどんな顔して受け取りゃいいんだ。

あの日は失礼しました、あれは本当にタマタマなんです、いつもはそうじゃないの、だってね、身体がしんどくて、熱があって頼んでおいたのにとか、言い訳を聞いてもらいたいが、それを言うのも野暮だ。

ああ。やってもうた。

ラクラしながら食器棚を探す。

ない。夫の言う通り、お金の封筒がない。

宅配のおじさんを待たせているのと、封筒がないのと、目眩とで混乱しながら記憶をたどる。

あ・・さっき寝る前にリンゴの箱がゆうパックで届いたときに、この代引きかと思って封筒をもって玄関に行ったんだった。

それで違ったから、玄関の花瓶の下に隠して置いておいたんだった。

それを忘れて食器棚の下ねと夫には言っていたのだ。見つけられないはずだ。

「ごめん、玄関だ。花瓶の下」

散々腹立たしく振る舞っておきながら偉そうに悪びれもせずそう言った。

「え?玄関?花瓶?」

夫が花瓶の下から見つけたようで「あったあった」と言いながら愛想良く受け取っているのが聞こえてきた。

夫の愛想良さが一層私のカカア天下を演出する。

あの嫁。怒鳴っておきながら、謝りもしないで威張ってる。コエエ。

今この瞬間、きっとそう宅配の人は完全に私を恐ろしい女だと認識したはずだ。

あああ・・・。

次回の受け取りのことを思うとますます頭が痛くなる。

ますますクラクラしてきた。

つまり、夫は悪くない。