華やぐ朝

「トンさんが降りてきたとたん、点が入った。ありがとう」

早起きしてテレビの前に立ちんぼだった夫が洗面所に顔を出す。

いつも通りラジオ体操に向けて起きてきただけなのだが、言われて悪い気はしない。黙って受け入れた。

うちのカミさんは運が強いと思っているのはどこかで彼のお守りになるかもしれない。

本当に頑張っているのは選手のみんなだ。手柄だけ横取りしてしまった。

息子はぐうぐう寝ている。

昨夜、遅くまで仕事をして降りてきた。

同じ部の先輩一人は試合に向けて早帰りし、もう一人は休暇をとったそうで、その仕事のフォローを引き受けて忙しくなっているという。

「面白いね。サッカーで休む人がいても通常モードで働く男は鳥のフンでは遅刻を選ぶ」

「あれは俺の一大事だ」

人事部長はカタールまで休暇をとって行ってきたらしい。

「どの試合観たのかな。ドイツ戦ならいいけどコスタリカだったらかわいそう」

まだ息子が幼稚園にあがったばかりの頃、夫が会社を休んで韓国やスペインにサッカー観戦で行ってしまうのを「なんて人だ」と驚き呆れたが、私のちっぽけな価値観で反応していたのだと、今頃になって理解する。

夫のような人も息子のような人も、たくさんいるんだな。

ま、変わり者には違いないが、人のことは言えない。

うちはみんな癖が強い。それぞれのベクトルがあっちこっち向いていて、要所要所でガチッと一致する。

日本が勝った。

もうしばらく、三人共通の祭りが続く。

それがちょっと嬉しい。