きみこそスターだ

ドトールに常連が戻ってきた。

私も含め、地元民の溜まり場であった前店舗で見かけた顔がチラホラと現れる。

改装後はビジネスマンと学生のひと息つく場所を意識したようだ。

以前の昭和の喫茶店のような長閑さは消えてしまった。

中央にあった植物の生けられていた大きなテーブルの代わりに塾の自習室のような個人ボック席が用意された。

入り口脇の席もそれぞれ電源が完備され、透明の板で区切られている。

なんだか寂しくなっちゃったなあ。というのが「まったり派」の感想だった。

顔馴染みの店員さんも消えた。ここはもうあのドトールじゃないんだな。

唯一、懐かしいのが壁に飾ってあるリトグラフ。額縁からそっくりそのまま前の店にも飾ってあったのと同じ。

ふふ。倉庫に入れてしまっておいたんだな。

 

若い女性と男性が持ち回りで店長をやっているようだ。

どうやらネームプレート左が金色だと店長、新人は若葉マーク、中堅は銀。

通常、店長一人と若葉マークで回っているこの店は、小さなことですぐに混乱する。

簡単に長蛇の列ができてしまうのだ。

若い店長は怒らないが、彼自身も一杯一杯なのが伝わってくる。それが好ましく、同時にハラハラしてしまう。

大丈夫だ。いいんだ、落ち着け。

できるだけ待たされても怒ってないと伝えてやろうと、マスク越しに強めの笑顔を送ってみるが、そんなもの見る余裕もない。

今日、また、注文カウンターがもたついた。

見覚えのある、改装前の店の角をいつも陣取って、噂話で盛り上がっていた「オールドシスターズ」の6メンバーが集結したのだ。

ここで待ち合わせて一緒に食事のようで、女学生のようにはしゃいでいる。

もう、頼んだ?向かい合って座る?あれ、4円値上げりしたわね。

もう可愛いったらありゃしない。

お帽子をかぶって、鞄を斜めがけにしてみんなでカウンターに並ぶ。レジ前にごちゃっと三人集まって、何にするか悩んでいる。あっという間に店の外までの列ができてしまった。

しかし。それを裁く、副店長が素晴らしかった。

たまに見かける銀バッジの中年男性が、彼女たち一人一人に通常の倍くらいの大きな声で、「何にします?A?飲み物、どうします?アメリカン?かしこまりました。ちょっと待ってくださいねぇ、今ね、混んでるからこのカード持って、お席で待ってていただけますか?はい。飲み物だけ運ぶんです。食べ物は後から持って参ります。大丈夫ですか?運べますか?お手数かけて申し訳ありません、あ、お次の方、同じでよろしいですか、どうしましょ、飲み物は、あ、はい、アメリカンですね。そのお次の方は、はい、大丈夫です、先に承ります」

早く決めろよという圧もなく、しかし迅速に、後ろに並ぶ人たちにも、納得のいくピッチ。

そして、シスターズそれぞれへのあたりが優しい。

おばあちゃんたちは背後に気づかず、今更ながらプリペイドカードにチャージをすると言い出した。

現金の足りない分をチャージしたカードから引いて欲しいというのだ。

レジの新人くんは、慌てる。

そこで正義の味方銀バッジ。さっとレジに寄り、代わりに会計をするとカードを返しながら大きな声でこう言った。

「いま、まだここに、556円、残っていますから、まだ使えるのでね、捨てないでまた来てくださいね」

すってき。

若者の下で働く中年の冴えないおじさんだと思っていた彼が一躍、影の実力者となった。

この店のヒーローは彼だ。

もしかしたら、若者店長もトレーニングされる側で彼こそが本物のトレーナーなのかもしれない。

新人の肩を叩いてトントンと励ますでもなく、何事もなかったかのように列の詰まりは解消され、次に待っていた私の番になった。

「たいへんお待たせいたしましたね。申し訳ありませんでした」

そういう彼はピリついていなかった。

ハンサムでもない、シュッとしてるでもない、そんな彼がダントツ素敵。

よかった。ここは、私の好きなあの感じのままだった。