朝、散歩をしていると携帯が鳴った。息子からだった。
あのさ、ちょっと確認したいんだが。
なんでしょう。
冷蔵庫の奥から母さんが持たせてくれたタッパーが出てきたんだが。なんか豚肉と玉ねぎの。煮物?炒め物?多分先週にもらったやつで、(今週中。冷蔵)って貼ってある。今、気がついた。これってまだ食べられるかね。
一瞬迷う。
我が家の冷蔵庫の中でそれを見つけた場合なら、きっと私は温め直して食卓に出す。
几帳面で神経質な息子がすんなりそれを受け入れるか。一度、この展開で妙なこだわりを持つと次回から必要以上に警戒する。しかしこれから一人で生きていくのにそんなふうでは生活しづらい。多少のことは大雑把にする感覚があってもいい。
迷いなく自信を持った様子を装い、はっきりと答えた。
ちょっとふた開けて匂い嗅いでみて。
おう。・・・嗅いでる。
どう?
どうって?
あ、それなら大丈夫。ダメだったらウッってくるような異臭を感じるはずなんだけど、違和感ないんでしょ。
うん。あ、ちょっと待って、そういうことなら。
もう一度、改めて鼻を近づけているようでしばらく間が空いた。
うん、何も感じない。
あと、明るいところで表面をよく見て。白いポツポツとかないでしょ?
ない。
じゃあ、大丈夫。一回も蓋開けてないんでしょ。
うん。
平気平気。温め直して、卵落としてご飯に乗っければ美味しいよ。
おう。そうか。
電話は切れた。
生きていくためのスキルを伝授した。問題はないはずだ。彼が一緒に暮らしていた時はそんなものは知らずに口に入れている。体の方では許容するだろう。
あれから三日経った。何も言ってこないところを見ると無事なのだ。