あれから32年

今日は夫の誕生日。

57歳になる。

知り合ったのは彼が24歳だったから33年になる。

朝からおでんを煮ている。この、異常なほど暑いこの時期にぐつぐつおでんを作ることこそ、私の愛情だ。

何よりもの好物、おでん。

結婚当初、良かれと思って冷やしおでんを作った。誕生日が7月30日のくせに、おでんが食べたいと言う。朝からこしらえ、時間をかけて冷やした。

汗をかいて疲れた体に塩分のある冷えただし汁は美味しかろう。

確かそれにお刺身と枝豆だった。

ところが、帰宅し、食卓につくなり彼は言った。

「これ、冷たいよ」

「わざとだよ。冷やしおでん

「僕、あったかいのがいい」

びっくりした。この西日のガンガン当たる暑苦しい六畳間で。米騒動になるほどの猛暑だった。おまけに結婚してから買えばいいねと、エアコンもない。

扇風機だけが回っている。

電子レンジに鍋ごと入れるわけにもいかず、時間かかってもいいから待ってると言うのでおでんに火をかけた。

狭い 2DKのアパートはあっという間に熱がこもり、私は汗だくになりながらガス台の前に立ち続けた。

それ以来、我が家ではいつ何時もおでんは熱々。

実のところ、私自身は冷えた大根が好きなのだ。

あれから32年。

エアコンをつけて、おでんを作る。