冷蔵庫がパンパンになった。
毎年、元旦の晩は実家とお節とおでんを食べる。そのおでんは私の担当なのだが、これが地味に緊張する。
美食家の姉は練り物にうるさい。母はスーパーのではなく、わざわざデパートの地下まで買いに行く。
数年前からおでん担当を引き継いだが、とてもじゃないが私の財布では揃えられない。
それでも、いつもよりちょっと高級なスーパーに出向き具材を揃えてお客様用みたいなおでんを拵える。
花鰹で出汁を取り、何度も何度も味見する。
今年は味が薄いね。
なんだ、牛すじないのか。
まあこんなもんよ、トンが作るものは。
母と姉の軽口にいちいち点数をつけられたように反応してた。
おいしいねって言って欲しい。次こそは。今度こそ。
今年は開き直った。
我が家の、いつもの、夫と息子が好きな、二人が好きなおでん。
ウィンナーも冷凍シュウマイも、市販のロールキャベツも入れちゃう。
いつものスーパーのコーナーでいつものお安い練り物をたくさん入れよう。
二人が喜べばいい。
息子の好きな餅巾着はいつもの倍、用意しよう。
元旦だけど日常。
トンのやることはこれだから。
エヘヘへへ。。
その具材を買ってきた。
冷蔵庫がパンパン。
スペースを作ろうと、豚こまとジャガイモ人参玉ねぎを取り出して肉じゃがを作る。
急いでいたのですき焼きのタレを使った。
夜、それを出す。
「今日の肉じゃが、おいしい。」
息子が言った。
いつもの真面目な肉じゃがは黙って食べるのにわざわざそう言った。
メーカーの味は確かなのだ。
これで喜ぶならこれを『お袋の作る肉じゃが』としちゃおう。
お袋の味にしちゃおう。
なにしろトンのやることだから。