そこに居るだけで

トランプをやって、負けて、もう一回!と言ってカードを集めてシャッフルする。

そうしてまた配られてきたのを扇のように広げる。

あの感じに似てる朝。全てチャラにしてまた始まる。

配られるたびに持ち札が変わるように、毎日同じところ同じ家族、同じ間取りで暮らしていても細部が違う。

家族に用事を頼まれる時間帯だったり、冷蔵庫の中身、やってくる友人、宅配、体調、機嫌、ラジオ番組、天気。

似てるようで初めてのその瞬間瞬間の連続を、経験と勘とで割り振って過ごしていく。

昨日は午前中のうちに肉じゃがを作り、家中を掃除した。玄関にお香を焚いて、窓際の椅子に腰掛けて見逃したテレビ番組をTVerで身始めたあたりから、風が強くなりだし気温が上がり始める。

とたん、眠気とだるさと頭痛と目の奥の裏側が痺れるような感じがやってきた。

そこから、何もやる気になれず、ただただ時間を潰す。

外の気温は上がっているのに、風が吹き込んでくると寒い。タオルのガウンを羽織って転がってYouTubeを目的もなく次から次へと流すように眺めていた。

気がついたら寝ていたようだった。

外は暗くなっていた。

肉じゃがと・・・鯖の味醂干しでも・・ああそれすらめんどくさい。昨日スーパーで買った茄子と挽肉の挟み揚げがまだ二つ残っている。あれと・・・冷凍のササミのフライでいいや。

朝のアサリの味噌汁がちょうど一人前残ってる。夫は今夜は夕飯がいらないから、それを使おう。

のそのそ起き上がり、シャッターを下ろす。

そうだ。母の様子を見ていない。姉が台湾に旅行中なので一応毎日、顔を出して困ったことは起きていないか伺う。

「こんばんわ」

蛍光灯の下でパズルをしていた。テーブルの正面にはテレビが付いている。

「あら、どうしたの」

「強風で気圧が乱れているのかだるくって。大丈夫だった?」

姉のために台所に立つ必要もない気楽さを満喫しているようだった。今夜は冷凍のグラタンを食べるんだと言っている。

「今日は黄砂がすごいから、あなたお風呂を沸かしてみんなが帰ってきたらすぐに入れなさいよ」

へーい、と家に戻った。

母はピンシャンケロケロしていた。

それが妙に私を落ち着かせる。

そこに座って居る、それだけでいいのだ。

私も夫と息子にとってそうなのかなと考える。

そこに居るだけで案外いいのかもしれない。