朝起きたら母からラインが入っていた。
大吉さん、立派じゃない。安心してみています。
昨日、いかに私が数日前から落ち着かないか、私が勝手に想像しているこれまでの大吉先生の心模様替などを話したものだから、よこしたのだ。姉が飲み会でいない夜だったのもあって送ってきたのだろう。
先日は息子のところに、サッカー日本代表が得点をした際、歓喜のコメントを送信してきたらしい。
「すぐ気がつかんかったけど、これ返事したほうがいいのかな」
「してくれたら、私も母も嬉しい」
何か返信していた。
携帯の画面を眺め、自分が素敵だと思っている人を認めてくれたようでニンマリする。
夫を紹介したときはこうじゃなかった。
結婚だけは自分の意思で決めたいと、母に相談は一切せず、ある日報告した。
「わたし、結婚するから」
二人で夕飯の支度をしている時だった。
母はキッとした顔で、手を止め「ちょっといらっしゃい」と家の外に私を連れ出した。
「いったいどういうつもりなの」
びっくりした。何か悪いことをしたことを咎める時の言い方だった。
「どういうことなのか、おっしゃい」
ドラマみたいに、ええっ、やだっ、あなたってば、いつの間に、おめでとうとなるものだと思い込んでいた私はしどろもどろでことの成り行きを説明する。
それは尋問のようだった。
ひととおり話を聞いた母は静かにこう言った。
「わかった。わかったけど、当分このとことは黙っていなさい。順序が逆でしょう、勝手なことを。お姉さんの結婚だってまだなのに。お母さんからまずお父さんに話すから。それまで黙っていなさいよ」
万引きでもしたかのような取り調べだったのでシュンとなったのを覚えている。
父は私の結婚に対して抵抗もせず、夫が会いに来るというのもすんなり受け入れてくれた。
夫をベロンベロンに酔わせ、「あいつはひょっとするとひょっとするぞ」と肯定的なコメントを妻に告げる。
そのジャッジを受け、母は改めて認めてくれたのだった。
結婚してから夫は父のことを親父さん親父さん、と懐いてくれた。息子のいなかった父も夫をラグビー観戦に誘ったり、飲みに誘ったり可愛がってくれた。
当時の私は「お父さんに息子を連れてきた」と手柄を立てたような得意な気持ちでそれを見ていたが、あれは父特有の優しさだったのだろう。よそ者の夫が私の家族に溶け込みやすいように。
家での一番の権力者の父が可愛がれば、自ずと祖母も母も認める。
夫は結婚前から毎週のように私の家で夕飯を食べ、くつろいで帰っていった。
大吉さん、いいじゃない。
相変わらず上から目線でのジャッジに苦笑する。
それでも私が直感でこの人いい、と思うものをすんなり同意してくれただけのことが、なぜこんなに嬉しいのだろう。
夫も直感で選んだ。
子育ても直感でやってきた。
自分の直感に自信が持てる言葉だったからかもしれない。