地球上の関心ごとが宇宙に向いた。
安土桃山以来の天体ショーなのだと知ると、理科の成績が悪かった私でも乗っかりたくなって外に出た。
夜空を見上げながら欠けてゆく月を見つけると不思議な懐かしさと切なさと悲しみと喜びとが込み上げる。
これまでの皆既月食を見た場面がパッパッパっと浮かんできた。
父の最期の夏、ベランダでみんなで見た。それぞれがこれがいつの日か思い出になるんだと感じながら陽気にはしゃいだ。父が「おおー、消えてくなあ」と声を出していた。
子供の頃、興味がなくて寒いから見に行くのが嫌だった。そもそもどうして月が見えなくなってまた見えるのか、よくわかっていなかった。地球の影になるということがそんなに神秘的ともなんとも思っていなかった。
受験で夏休みの自由研究が終わっていない息子を手伝いたくて、月食について調べてわかったことを箇条書きにした年もあった。理科の苦手な母親の理解は小学生のそれとちょうど同等で、大人の手の入ったレポートのように賢くもなく、区の展覧会へと出品された。
生きていることに必死であそこに帰りたいなどと思うときもあった。
こんなに穏やかな気持ちで夜空を見上げるのはいつ以来だろう。
仕事でそれどころじゃない男チームに写真をLINEで送る。
知らないうちに私はお母さんになっていた。
今朝、西の空にちょっと誇らしそうに昨日のお月様がいた。