呑気なやり方

久しぶりに母の一言にドヨーンとしていた。

全治三日。

このところ、三日で立ち直る。

以前のようにそのときのシーンを思い返し、あの台詞にどう言い換えしていたら自尊心を守れたか、なんと言葉を発したら考え方をわかってもらえるのか、そもそも自分の考え自体、おかしいのかと、何度も何度も反芻することはなくなった。

悲しみの傷を何度も何度もなめていると、いつまでもジクジクしたままで、しまいには膿んでくる。

怪我したところは絆創膏も貼らず、風にあたるよう放っておいた方がいい。そうした方がすぐに瘡蓋ができる。

そして瘡蓋のできたところはちょっと厚くなり、次からの刺激に強くなる。

 

ダメージを受けたときのコツ。

即座に「ううっやられた・・・」と呟きベッドになだれ込む。

なるべく時間をおかない方がいい。

しばらく放心。

このとき横になりながら、気をそらそうと何かしようとしないこと。撃たれた痛みにだけに集中するのだ。

やられたーっとぶっ倒れると、意外とさっぱりする。

だんだん浅かった呼吸が、知らず知らず整ってくる。

もうだめだ、と思った傷も意外とそう深いものではなかったことにも気づく。

ゆっくり体を持ち上げ、台所にいき、何か口に入れる。

私の場合、甘いホットミルクが特効薬のようだ。

甘いミルクをゆっくり飲みながら

「びっくりしたねえ、怖かったねえ」

とことん自分よりの甘ったるい慰めの言葉を唱える。

1日目にこれをやっておけば、あとは二日。

しっかり手当てをしたら、翌日からはやたらと消毒したり包帯を取り換えたりといじらず、放っておくこと。

勝手に皮膚は再生してくる。

 

何を言われたか、何が正しいか、何か気をつけることはあるのか。

自分はダメなのか。馬鹿なのか。存在する意味はあるのか。役に立っているのかいないのか。

そこを考え出しら沼にはまる。

その沼に一度足を取られると、底無しだからえらいことになる。

突き詰めない。

そういうところは突き詰めない。

とにかく私は生きているのだ。

穏やか日常にポンと小石が投げ込まれた。

水面には波紋ができた。

それだけのこと。

波紋はやがて消える。

そして私はまた、お構いなしに呑気に生き続ける。