忘れない気がする

ブルーインパルスが東京上空を飛んだ日、夫と息子三人並んで6機が頭の真上を長い雲のような煙を引いて通過してゆくのを見上げた。

「ま、俺はそういうの見ないがな」

部屋に引っ込んだ息子が、急に

「そろそろ来る頃か」

澄ました顔してやってきた。

見ないがな、と聞いたとき、興味なくても見ておくと何年か経ったとき、あの時、見たっけなって思い返すもんだよ。見とこうよ。ほら、小学生のときも完全日食みたじゃない・・・そう言いたくなったがぐっと堪えた。

自分のダイアリーに刻む一場面を作りたいだけかもしれないと同時に浮かんできたからだった。

それでも自分は観るつもりでプロペラのを音を気にしていたが、息子の方が先に気がついた。

隣の部屋で彼お得意の「そうはゆうても」で、情報を追いかけていたのかもしれない。

「うわうわうわっ、来た来た来た」

大急ぎでベランダに飛び出し空を見上げる。

綺麗な正三角形の配置で並ぶ機体が頭の上を通過していく。

無機質な物体なのに、ピッとした威厳と力強さをが今の私を励ます。

右側で手摺りに手をかけ「やっぱすげえな」と目を潜める息子は、完全日食のときのように「どこ、どこ?」ともう私に尋ねてこない。

膝を曲げてあれこれ説明してやったあの日からずっと背丈も伸びた。

煙だけが残され、飛行機は一旦消えていった。

「わあ。すごかったね、なんか胸が熱くなる」

二人は終わった終わったと家の中に入っていく。

両隣の夫と息子を見上げ、いつまでもはしゃぐのは、今はわたし。