そりゃもう張り切って起きた。
雨音してるしてる。長靴長靴。
昨晩届いた。配達が間に合わず今日はもうだめかと諦めかけていたがギリギリ間に合った。宅配便業者の配達員の人、尊い。
早速家の中で足を入れる。
少しヒールがある。スニーカー慣れしているので、わずか2センチ程度のゴム踵でもおしゃれっぽさを感じて嬉しい。ペタペタ数歩歩いてみる。うん、よし。いい感じだ。間違った買い物ではなかった。
そのまま階段の一番下の段にそれを置き、翌朝着る服も準備して、その次の上段に揃えて乗せた。
あれほど億劫でうんざりした雨の日の散歩がむしろ楽しみになり、眠りについた。
そして飛び起きた。雨音に張り切って起きたのだった。
準備していた服に着替え洗面所で身なりを整え、朝の薬を飲む。レインコートを羽織りリュックを背負い、いざ。
足首から脹脛までをしっかり覆われ、暖かい。
玄関ドアを開け、颯爽と歩き始めた。
おお、ズンズン歩きやすい。カポカポ踵が浮いてきたりもしない。ゴムの踵が地面に当たる衝撃を柔らかく吸収して心地い。
いい買い物をした。
ずんずん。ズンズン。
あ、これ、ちょっと...。
そう感じたのは家を出て緑道の半分まできた頃、15分ほど経ってからだった。
薬指と小指が先端の幅が狭くぶつかっている。指同士がキュウっと詰まって爪が当たってかすかに痛い。
けれども新しい長靴をすっかり気に入ったものだから、この事実を認めようとしない。
そういえば小学生の頃、よくこういう靴履いてたなあ。子供だったからこの程度へっちゃらで気にもしないで走り回って遊んでたよなあ。だからこれっくらい平気平気。
しかし7、8歳の頃の私と55の私とでは、足の筋力も柔軟さも足裏の肉付きもえらく違う。
当時はへっちゃらだったが、今の私にはそれがじわじわと響いてくるのだとその時点ではまだわかっていない。
公園までもご機嫌だった。
水たまりをじゃぶじゃぶ進み、誰もいないのをいいことに傘をくるくる回し自分も回転してみたりする。足は痛みというよりは指が固定され蹴り出すときに足裏が伸び切らない。土踏まずのあたりが痺れるような、動きを制限されているような。
それでも浮かれ現実と向き合うことをしない。
親指を縮め少し靴底から足裏を浮かし隙間を作って歩けば大丈夫。
ラジオ体操が終わり家に向かう頃、やはりこれは足幅に合っていないのではと受け入れざるを得なくなってきた。
爪が指に当たって痛い。
土踏まずも疲れている。
失敗したか。
家を出てから1時間経っていた。
まあでも毎日履くわけじゃないし。ちょっと歯医者さんやスーパーに行く程度なら我慢できる。
逃げ道と言い訳を自分に言い聞かせているあたり、上手な買い物とは言えない。
帰宅して靴を脱ぐと足がほどけ、ホッとした。
雨の中の散歩をして午後から晴れてきたら神保町に行こうと考えていた。
気になる本屋を見つけていた。
朝食を済ませゴロンと横になる。
久しぶりの踵のある靴と、窮屈な爪先で歩き、運動会の後のような疲労感。
外はどんどん明るくなって気温も上がってきた。
絶好の神保町日よりだというのに出かけるエネルギーが湧いてこない。
ううむ。若干の負けを認めるとしよう。