新しい鍵はすこぶる快適で力を込めなくてもスッスッと回る。
経年劣化で、鍵穴が歪み目一杯力を込めても半分しか回らず鍵がかからない。早めに支度したはずなのにここでひっかかり何度も遅刻しそうになる。
それが我が家の鍵事情となってもう数年。そのまま放置していたのは単にケチだったからだ。
頑張れば使えるのに4万をこえる出費は納得がいかない。それに私は専業主婦なので丸一日家を空けることはほぼない。当時息子は自称、友達のいない学生だったから、授業のない日は彼もほとんど在宅していた。
そうこうしているうちに、息子は社会人になる。二人が出社したら映画行って、美術館行って。と夢見ていたのもコロナに足止めをくらう。テレワークがはじまり、夫も息子も毎日朝から晩まで、家にいる。
つねに番人が複数いるので、私が鍵を使う頻度はますます減った。
あの日も本当は持って出る必要などなかったのだ。ひさしぶりに電車に乗ってのお出かけなものだから、ちょっと張り切った。
張り切って、鍵を持って出てみたのだった。
「新しい鍵くれよ」
息子に言われ、それぞれに手渡す。
「この度はどうもお騒がせいたしまして。差し替えお願いいたします」
しかし未だ3人とも、これを実際使う場面に出くわしていない。
ほぼ家にいる3人。
誰かが出かけても必ず誰かが居る。
私に至っては新しいキーホルダーをまだ買っていないので、剥き出しのまま箱に入れてしまっている。
4万円もしたのに。
コロナが落ち着いてもテレワーク体制は定着するらしい。
ふらふら出かけてドトールで読書をしていたあの日々は、もう戻ってこない。
今日は朝から雨。
夫は出勤したが青年は在宅勤務。
オムレツの具を作った。大根とさつま揚げと昆布を煮た。
窓が湯気で曇る。
雨の日のまったり過ごす家時間も悪くない。