お留守番

夫が昨日の午後から仙台に出張している。

二週間だそうだ。

夫を見送ったその直後、なんだか特別なことをしたくなって家の中をうろうろする。

期間限定の今だからできること、しなくちゃ。

ベッドの向きを変えよう。

壁にくっつけているのをやめて、西向きを北向きにしたかったのだ。

仕事中は2階にあがらないようにしているので、日差しの当たる寝室は久しぶりだ。

布団を全部下ろし動かす。

無印良品のデスクも、折り畳んでベッドの頭と壁の間にしまっていたのをもう一度組み立て、本棚の前に置いた。

ここも私の場所にしよう。

一階にも二階にも。私の場所。週末夫が一階リビングでテレビを占領しているときはここに、平日仕事でこの部屋を使っているときは下に。

いつでも移動さえすれば、自分のスペースがあることになる。楽しくなりそうだ。

それから掃除機をかける。邪魔をしないようにというのを言い訳に、モップでいい加減にやっていたから、あちこちに埃があった。

窓を開ける。新鮮な空気と、日光が入ってスッキリする。

IKEAの椅子をテレビの前に置き、オットマンがわりの、かつては息子のオムツ入れだったキャスター付きの蓋付き籠を持ってくる。

テレビを見るのにちょうどいい角度になっているかと座っては、調整する。

あとなんか、あとなんかないかな。

ふと夫のデスクチェアにかかっているカーディガンに目が留まった。

私が母の従姉妹からもらったものだったが、男性用だったので数回着て、夫にあげた。

「トンさんのお下がりだぁ。トンさんのぬくもりがする〜」

喜んで着ていたが、いささか夫には小さかった。

格好良くないから脱げといっても暖かいんだといってよこさない。

「お願いだからそれでネット会議しないでよ」

「大丈夫だよ、そんときゃ脱ぐから、でもトンさんの温もりだから。これ僕の」

寝巻きの上にも、日中仕事中にも連日ずっと着ていたものだから毛玉だらけになっている。

これは返してもらおう。

カーディガンを椅子から外し、一階に持って降りた。

毛玉を丁寧に取り、洗う。

「それ、やっと洗ってんだ」

在宅ワークで家にいた息子が言う。

「そう。今のうちに。やっぱり彼には小さすぎた、私が着る」

「あれは酷かったもんなぁ」

寝室の模様替えをし、自分の居場所を二階にも設置し、夫からカーディガンを取り返した。

それだけ。

それだけなんだけど、なんだか「よし」という気分。

夫不在モードに切り替わるための儀式が済んだ。

残り14日。あとは特別なことは何もせず、淡々と過ごそう。