パン

母から大量の食パンをもらった。

正確に言うと「あなた、持ってかない?」と言われ、引き取った。

コロナ感染予防のために、ずっと休みだった老人会の体操教室も来週から再会する。

今日はその前準備として役員だけが集まって打ち合わせをしてきたのだそうだ。

「ただいま・・・」

ちょうど庭で昨日買った苗の植え付けをしていたところに帰ってきた母は、あきらかにげんなりしている。

「なんか皆さん、いろいろご意見おありで、ずっと話してるの」

家の中では女帝の母も、外に出ると大人しい。

ずっと早く終わらないかと黙って座っていたと言う。

そんなのどうでもいいじゃないのと、イライラしてるのをグッと抑えそこにいたに違いない。その我慢も加わって疲れ果てたのだろう。

「あら、お花・・また買ったの・・可愛いじゃない・・」

ヨロヨロと玄関の扉を開けるその手に、そういえば、パン屋の一番大きな、茶色のビニール袋がぶら下がっていた。

「どうでもいいけどあなた、パン持ってかない?」

夕方、枝豆を茹でたので持っていくと、そう言う。

厚切りのパンド・ミーが8枚、大きな袋に入っている。

食パンは家にもあるし、面倒だなと思ったが、いらない?と言われたときは断ってもゴリ押しされる。それでも断るとお臍を曲げる。

経験上、ありがたくいただく。

「ほら、だってこれ」

机の上には、甘いお豆のパン、果物の乗ったデニッシュ、クロワッサン、食べかけのアンパンの半分がビニールに包んで置いてある。

「どうしちゃったの」

「わかんないのよ、頭がボーッとしててたくさん買っちゃって、食パンも三斤くらい入ってたのよ、これ、うちの冷凍庫にも入れての残りだからね」

だからねって。

相当、緊張し、その緊張が解けてお腹も空かせた状態で店に寄ったな。

わかる。疲れてお腹空いてると、見たもの全部美味しそうに見えるんだよね。

そして、家に帰ってクールダウンして、買い込んだ量にびっくり仰天する。

「ちょうど昨日トマトソース作ったから、ピザトーストの状態にして冷凍しとくわ。土日の朝に便利だし」

「あ、そう?じゃ、もっと持ってく?」

いえいえいえいえいえ。