花の苗

午前中、花の苗を買いたくて夫に頼んで車を出してもらった。

「246を走っていた時、道路の左っ側に大きな花屋さんがあったでしょ、わかる?」

「あぁ、あそこね、わかるわかる、すぐだよ、車なら20分くらい」

「じゃ、午前中のうちに行って帰ってこられるね」

楽勝楽勝と威張るので、さっと行って午後は庭で苗を植えられると張り切った。

母に一緒に乗って花を選ぶかと聞くと、自分は行かないが、紫陽花の鉢がまだあれば買ってきてと言う。

「今ならギリギリ根付くと思うのよね、適当なの3つくらい選んでよ」

午前10半に家をでた。

道は意外と空いていて、20分もかからず目当ての店が見えてきた。

「あ、あそこだ、あれ!」

目の前は上にいく道と脇にまっすぐ進む道とに分かれている。

運転免許のない私でも、ここはまっすぐ行く方だと確信したのに夫は坂を登り始めた。

え?

やはり、それは遠くに行く人達への道で、行きたい花屋に戻るには相当先に行かないとUターンできない。

やっと横道におり、方向転換しようとハンドルを回す。

しかし、車はどんどん街中を走り、どんどん道を外れていく。

「別にあの花屋さんじゃなくてもいいよ。どこかで見たらその花屋さんでも」

もはやあそこに戻るのは無理だと諦め、そう言うと、夫もそう感じていたようで

「あ、そう?じゃ、目黒通り沿いの紀伊國屋の隣の、あそこ、あれでもいい?あそこなら間違いない、すぐに着く」

カーナビをセットし直しまた、進む。

そこから次に定めた目的地へはやはり、またすぐついた。

「えーっと駐車場は・・あ、ここ右折できないんだ、ちょっとまってね」

またしてもぐるっと切られたハンドル。またしても遠ざかる目的地。

そしてまたしても戻れない。どういうわけか駐車場の入り口にたどり着けない。

ここで曲がるんじゃないかなあ。言いたいが、言うと、短気な夫はカッカするので黙っていた。すると、

「今日じゃなくちゃダメ?」

あ。

「いいよ、なんなら近所のスーパーに置いてある苗でもいいよ」

「ああ、あそこ今日ワイン半額だからそこにしよう」

ワインのあるところは迷わない。

歩いて数分のいつも行ってるスーパーで日日草やペチュニアを選びカゴに入れ、夫はいそいそとワインを選ぶ。

母の言っていた紫陽花はスーパーにはあるはずもなく、仕方ないと諦めた。

結局1時間半ドライブして、結局夫のワインを買いに行ったようなものだった。

それでも薄いピンクと紅色の日日草は可愛らしい。

さあ。午後は気を取り直して庭で植え込みましょ。

車が家につくと、母が出てきた。

「花は?」

「紫陽花、なかったのよ」

「あらぁ。これは?」

「あ、かわいいから適当に買ってきたんだけど、欲しいのあったら持っていっていいよ」

「いくついいの?」

「お好きなだけどうぞ」

「じゃ、これ全部もらってもいい?」

え。

お好きなだけと言ってしまった手前、どうぞと言うと嬉しそうにビニール袋を抱えて持っていった。

次回リベンジのときは、絶対「そこ、左の道、坂登らないで」と言う。