昼ごはんの準備が整ったところに電話がなった。
「もしもし、こちら警察署です。先週、お住まいの辺りで大掛かりな放火魔グループを捕まえたんですが。ちょっとご協力いただけますか」
ん。なんか声が遠いな。
そう一瞬思ったが、警視庁と言う言葉に改まる。
「実は所持品を確認していたところ、リストみたいなものがありましてですね、その中にこちらの住所と・・お名前・・えっと読み方間違っていたらごめんなさい、〇〇・・〇〇さんとお読みすればいいのかしら・・あってます?」
名前と住所くらいならいいかと、思わず
「あ、はい、あってます」
と答えた。
「あ、ありがとうございます、それでですね・・えーっと」
「あの、今本人がおりますので代わります」
「え?・・あ、そう・・・ですか・・」
この言い淀む感じの返答も、刑事さんがさっさと済ませたいのにと困惑してらっしゃると勘違いしていた。
「すみません、すぐですから」
二階にいる夫を階段下から呼び、出てもらう。
「もしもし?あれ?・・・切れてる」
あら、切れちゃった、またかかってくるかしらと呑気にこれまでの流れをもう一度説明すると、急に怖い顔で怒られた。
「だから、ダメなんだよ、そう言うのに答えちゃ。」
なんだなんだと息子が降りてくる。
「だって住所と名前の確認だけだよ」
「それがダメなのッ!」
あらかたを察知した息子が一言
「詐欺やな」
男二人が腕組みをして私を見下ろす。
こんな時に限って、寝相の一致のように同じポーズをとる。
仕事中だからと二階に戻る夫に反して、息子は「いいから警察に確認しなよ」と電話をかける私を、背後で庭を眺めながら腕を組み聞き耳を立てている。
大代表のダイヤルはなかなかつながらず、長いこと待たされた。
生活安全課に回してもらい、刑事さんにことの次第を話すと
「それ、詐欺です。」
キッパリはっきり言い渡された。
あ・・そうですか・・。
なんだかとても恥ずかしい。
「今、その手の連絡がたくさん来てるんです。念のため、お名前と住所を教えてください」
え・・・住所と名前。
えっと、えっと、言っていいの?えーっと。
落ち着いて考えてみれば自分からかけた正真正銘の本物警察署なのである。大丈夫なのだが、今、失敗したばかりなので、躊躇した。
「〇〇区、〇〇が丘、〇〇丁目・・・・、・・です、はい、ええ、妻です、・・・です」
いいながら振り向くと、息子は黙って外を眺めている。
その様子をみて、言って大丈夫と安心する。
うっかり住所氏名を確認してしまったんですけどと、この先考えられる恐ろしいことはなんだと尋ねると
「今は住所氏名くらいの情報は漏れていると思ってください。相手は油断させるための切り口で、ここから家族構成や、年収、クレジットカード番号などを聞き出そうとしたと思います、ご主人に変わると言ったので逆にもう警戒してかけてこないかもしれません」
大きなことに巻き込まれる心配はないと知り安心した。
電話を切り、いつの間にか降りてきた夫とすぐそこで見張っていた息子二人に、刑事さんになんと言われたか報告する。
「だからいつも留守電にしてあるのに、なんで出たんだよ」
「とにかく絶対返事しちゃダメなんだって」
はい。 気をつけますと言うとまた怒られた。
だから電話はもう出るな!
はい〜、そうしますぅ。