息子が会社から帰ってきて深くため息をつく。
「みんなが素晴らしすぎる。頭のいい学校の人たちばかりだし」
学生時代は人前で発表するのも、企業に出向いてプレゼンするときも本番には強かった。自信があったから。けれど、今日初めて会社で発表したとき、声はうわずってまるっきりダメだった。
本番に弱くなってしまった。
「大丈夫、あなたはユニークだから。それって努力じゃ手に入らないもんだよ」
親バカな私は本気で答える。
「大勢の学生達を見る中で、君の、学歴もたいした資格もない履歴書を見て、実際面接で本人を見て、それで、こいつ入れようって思ってくれたんだから。大丈夫」
新人研修は同期と同じ課題をし、共に過ごすから、どうしても自分と他人を比べてしまう。
そして自分の方が劣っていると感じて、落ち込む。
新入社員あるあるなのだろうが、実際仲間は優秀なのだろう。
息子はずぱ抜けて頭が切れるタイプではない。
どちらかというと発想が変わっているというか、こだわるところが変というか。
スイッチが入ると、妥協せずとことんやるが、興味がないと見向きもしない。
私としては、会社はその変わりさ加減を面白い奴だと思ってくれたのだろうと、勝手に解釈している。
「だって面接の時は自信があったから堂々としていた。その俺を見て入れたのにアレ、こいつこんなダメだったかってがっかりしてるんじゃないだろうか」
はあ。そんなふうに思うのか。
同期の発言や態度に圧倒されながら、誘われなくとも「そういうのは大事だと思って」昼ごはんを買いに行くのに黙ってついていっているという話を聞くと一瞬、キュンとする。
あの学食にも馴染めず、友達も作れなかった超人見知りが。必死なんだなぁ。
「大丈夫、人事って意外と鋭く見ているものだよ。君に求めているのは頭脳明晰さじゃない、その妙な唯一無二のとこだよ、きっと。間違いない。だから意識して変わろうとするな」
そのまんまで真っ直ぐ努力すればいい。
そのまんまを気に入ってくれる人達がきっといるから。
自分を変えようとするな。
「そうかよ。それでいいのかよ」
「そうだよ。もし何か変えるとするならば、起床時刻をもっと早くして時間がないから皿洗いできないっていう今のリズムを変えることお勧めする」
今朝、トイレを掃除しながら昨夜自分の言ったフレーズが頭に浮かんだ。
自分を変えようとしないこと。そのまま淡々と投げずに。そのまんまの状態で寄ってきてくれる人がきっといる。その人たちを大事に。
息子に向かってなら本気でそう思えるのに。
これ、私のなかの私にも、よぉく言って聞かせよう。