花屋のおばさん

花の苗を買ってきた。

今日は昨日とは違うご近所スーパーの店先で。

やはり庭が殺風景なので、苗が欲しい。

ここで一月ほど前に買った日日草が、元気に根付き、可愛らしいのでまた同じのを買おうと思ったのだ。

店先にあるカゴに自分で選んだ苗を入れ、おばさんのところに持っていく。

全部で6株。

「これもいいけど、あそこの奥にあるベゴニアも、植え替えると元気になるんだよ、あんまり売れないから私、鉢に植え替えたらさ、すごく元気になったんだから。ほら、あそこの奥にあるやつ、ほら、あれ」

どれ?見せて。

おばさんにくっついて、見にいくと、確かに鮮やかにピンとした花々が寄せられていて、愛らしい。

「ね、植え替えると可愛いのにさ、誰も買わないんだよ」

実は私も、店先に並んでいるのは花も一つか二つしかついておらず、華やかさにかけると思い、選ばなかった。

こんな風になるんだ。可愛いんだ、これ。

「あれ、いくらなの?」

「150円でいいよ、本当は200円だけど、150円にしてあげる」

じゃあ三つ頂戴と言うと、おばさんはベゴニアのところに移動して、どれでもいいよ、好きなの選びなよ、と機嫌が良くなった。

「ほら、この濃いピンクは?いろんな色があったほうがいいでしょ」

その「濃いピンク」は中でも一番しょぼんとしている苗だった。

あれ。もしかして、私、売れ残りを押しつけられてる。ま、それでも、欲しいと思ったのは本当だし、それでもいいや。

薄いピンクと白と思っていたが、プロが「濃いピン」と言うのならと

「じゃあ、どれがいいか選んで」

と頼んだ。

すると

「そうねえ。あんまり元気ないのあげてもねえ。悪いしねえ」

白と薄いピンクと元気な赤を「これどう?」と取り上げ袋に入れてくれた。

「ちゃんと下を割ってやってさ、植えてあげたらうまいこと咲くから」

あのおばさんが最終的に「濃いピン」を私によこさなかったのは、じゃあ選んでなどと、委ねてくる客を、そのトロくささから、こいつじゃ弱そうな苗を再生できないかもと、丈夫なのを勧め直したのか、それとも、押し付けようと思ってたけど、止めたのかはわからない。

わからないが、なんとなく、この人、いい人なんだなと感じた。

なんとなく。

 

 

花の苗

午前中、花の苗を買いたくて夫に頼んで車を出してもらった。

「246を走っていた時、道路の左っ側に大きな花屋さんがあったでしょ、わかる?」

「あぁ、あそこね、わかるわかる、すぐだよ、車なら20分くらい」

「じゃ、午前中のうちに行って帰ってこられるね」

楽勝楽勝と威張るので、さっと行って午後は庭で苗を植えられると張り切った。

母に一緒に乗って花を選ぶかと聞くと、自分は行かないが、紫陽花の鉢がまだあれば買ってきてと言う。

「今ならギリギリ根付くと思うのよね、適当なの3つくらい選んでよ」

午前10半に家をでた。

道は意外と空いていて、20分もかからず目当ての店が見えてきた。

「あ、あそこだ、あれ!」

目の前は上にいく道と脇にまっすぐ進む道とに分かれている。

運転免許のない私でも、ここはまっすぐ行く方だと確信したのに夫は坂を登り始めた。

え?

やはり、それは遠くに行く人達への道で、行きたい花屋に戻るには相当先に行かないとUターンできない。

やっと横道におり、方向転換しようとハンドルを回す。

しかし、車はどんどん街中を走り、どんどん道を外れていく。

「別にあの花屋さんじゃなくてもいいよ。どこかで見たらその花屋さんでも」

もはやあそこに戻るのは無理だと諦め、そう言うと、夫もそう感じていたようで

「あ、そう?じゃ、目黒通り沿いの紀伊國屋の隣の、あそこ、あれでもいい?あそこなら間違いない、すぐに着く」

カーナビをセットし直しまた、進む。

そこから次に定めた目的地へはやはり、またすぐついた。

「えーっと駐車場は・・あ、ここ右折できないんだ、ちょっとまってね」

またしてもぐるっと切られたハンドル。またしても遠ざかる目的地。

そしてまたしても戻れない。どういうわけか駐車場の入り口にたどり着けない。

ここで曲がるんじゃないかなあ。言いたいが、言うと、短気な夫はカッカするので黙っていた。すると、

「今日じゃなくちゃダメ?」

あ。

「いいよ、なんなら近所のスーパーに置いてある苗でもいいよ」

「ああ、あそこ今日ワイン半額だからそこにしよう」

ワインのあるところは迷わない。

歩いて数分のいつも行ってるスーパーで日日草やペチュニアを選びカゴに入れ、夫はいそいそとワインを選ぶ。

母の言っていた紫陽花はスーパーにはあるはずもなく、仕方ないと諦めた。

結局1時間半ドライブして、結局夫のワインを買いに行ったようなものだった。

それでも薄いピンクと紅色の日日草は可愛らしい。

さあ。午後は気を取り直して庭で植え込みましょ。

車が家につくと、母が出てきた。

「花は?」

「紫陽花、なかったのよ」

「あらぁ。これは?」

「あ、かわいいから適当に買ってきたんだけど、欲しいのあったら持っていっていいよ」

「いくついいの?」

「お好きなだけどうぞ」

「じゃ、これ全部もらってもいい?」

え。

お好きなだけと言ってしまった手前、どうぞと言うと嬉しそうにビニール袋を抱えて持っていった。

次回リベンジのときは、絶対「そこ、左の道、坂登らないで」と言う。

盲腸、回復いたしております ありがとうございます

ご報告が遅くなり申し訳ありません。

息子は金曜日に無事退院いたしました。

病院から1キロの距離の家まで歩いて帰ってこられるほど元気です。

痛みはやはりまだあるようで、よくドラマで見たのと同じように、冗談を言うとゲラゲラ笑いながら「やめて笑わせないでくれ」と悶えております。それでも食欲も旺盛ですので心配はいらないようです。

「俺、今回入院してよかったよ」

テレビも見ないで過ごした数日間に、色々と就職に対して深く考えることができたそうです。

どう深く考えが至ったのかは教えてくれませんが、何か方針が定まったと申しております。

そうそう。病院から戻ってきての変化について。

朝、起きるやーん。

そして歩くやーん。

病院では強制的に決まった時間にカーテンが開けられ、朝食になります。家ではぐうたら10時過ぎに起きてきて気ままに暮らしていた息子も、すっかりこのリズムが身体に染み付いたようで、8時過ぎには起きてきます。

もう一つの歩くやーん、は、毎日家にこもりっきりで、用事のない日は朝から晩まで食事以外は部屋に籠もっていたのも、解消されたと言う喜びです。

主治医から「とにかく歩いて。盲腸は歩くのが一番だから」と言われたのを、真面目に守るべく、朝食後に30分、夕飯前にも30分、家の前の緑道を往復しています。

夕方帰宅するとそのままシャワーを浴びるという、なんと健康的な生活!

 

「なんか歩くとやっぱり気持ちいいな」

二週間前の本人の口からこんな台詞が聞かれるとは思ってもいませんでした。

ありがとうっ先生っ!

できれば次回外来の時に、「この歩く週間はずっと続けましょう」と是非、言っていただきたい。

長々と書き連ねましたが、平和な日々が戻ってまいりました。就活も月曜から再会するそうです。

ありがとうございました。

 

追伸

入院中、とてもじゃないけど肉なんか食べられないと言う息子の言葉を真に受け、めんどくさいのに豆腐と人参、ひじき、枝豆、鶏ひき肉を油揚に詰めて甘辛く煮たのやら、魚の煮物やら、とにかくお腹に優しいものをたんまり作り置きしたわけなのです。馬鹿母は。

しかし、青年は帰宅した日こそ「まだあんまり脂っこいのは・・」としおしおしていたものの、翌日になると、肉を欲し、豆腐云々への需要はなく、そしてさほど喜ばれず、たっぷり作った油揚たちと、お肉とが冷蔵庫で同居する状態でパンパンです。

当分、夫の遅い夕飯に使っていくつもりです。